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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
たりないぶたい
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たりないぶたい 12

「にしても、急に西村珠紀が控え室に来てお前の名前叫んだ時は驚いたな!一瞬どこの子供が迷い込んできたのかって思った位なんの前触れもなかったし」

横井先輩がいつもより饒舌なのも見逃さない。

そもそも、先輩は演奏をする前ヘッドホンをして自分の世界に入り込んでいるはず。

そのルーティンを忘れる程珠紀の乱入は衝撃だったのだろう。


久しぶりに珠紀に振り回される。

だけどそれが嫌ではない自分。

いつも予想外の行動を取るのが珠紀の面白さ。

でもいつも真っ直ぐで感情を隠さずに表にだす。

だから私は珠紀が好きなのだ。


気付けば緊張で張り詰めていた空気が流れていた控え室は、話し声が聞こえるほど穏やかになっていた。

これも珠紀の力なのだろう。

近くにいても離れていても彼女の影響力の凄さには圧倒される。


私は自家製ドリンクを一口含み喉を潤す。

こんな時まで自分の心は少し斜めなものの捉え方をしてしまう。

環境が変わっても私は相変わらずなのだ。


控え室の扉が開く音がする。

先程までの事があった為かみんな反応が早い。

扉を開けたのは運営スタッフの方。

一斉に視線を浴びたスタッフさんは少し戸惑いながら控え室に入ってくる。


「まもなく3次選考を開始します。皆さん準備の方お願いします」

その言葉は珠紀の余韻を吹き飛ばし一気に部屋の空気を張り詰めさせる。


「なお、観客席は満員となりました。このそれだけこの予選の注目度が高いという事なのでしょう。皆さん頑張って下さい!」

そう言うとスタッフさんは控え室から出て行く。

それと同時に扉の音が部屋に響く程の静寂が訪れる。

みんな思い出したのだ。

これから自分達はステージに立つのだと。

その現実がすぐそこまで迫っているのだと。


振り向くとさっきまで饒舌だった横井先輩も耳にヘッドホンをしていた。

私も自分の鼓動が速くなっているのを理解している。

今岡先輩も私が渡した自家製ドリンクを一気に飲み干す。


「いよいよか!緊張するな!」

こんな緊張感の中、不思議な事に豊田先輩の口数だけが増えていた。


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