たりないぶたい 11
控え室の扉に近づいていくにつれ違和感があった。
静か過ぎる。
私が楽屋を出た頃は騒がしかったはずだ。
16区ナゴヤのリハーサルも終わったし、いよいよ本番に向けてみんな集中しているのだろうか。
そんな事を考えていた。
さらっと言ったものだから気にしていなかった。
“でね!会いに行こうと控え室に行ったらここにいるって教えてくれたの!“
それはほんの数分だったのかもしれない。
しかし、先程までモニターに映っていたアイドルが楽屋にやってきただけでも大変な事。
それに加えて、気さくに話しかけてくれている。
珠紀はなんて事をしてくれたのだろう。
夢でも見ていたのではないかという表情が、その事を物語っている。
さて、どうしたものか。
私は今控え室にいる人の視線をほぼ総なめにしている。
それは、この派手な柄のシャツのせいではない事はわかっている。
そして、みんなが私を待っていた事がその視線
から伝わってくる。
今にも弾けそうな水風船の様。
誰かが口火を開けば一気に水が押し寄せてくるだろう。
アイドルスイッチを入れる気持ちをつくる。
珠紀の起こした騒動だ。
私がなんとかしなくては。
その時だった。
エレキギターの音が控え室に響いた。
私には聴き慣れたギターの音。
不意に鳴ったその音が今にも破裂しそうだった水風船を萎ませていく。
「あ、やばい」
その人はそう呟くとわざとらしくヘッドホンのコードをギターに繋ぎ直す。
私はその隙にギターを鳴らした張本人の元へと戻る。
「先輩ありがとうございました」
私は今岡先輩に頭を下げる。
「なんのことだ?てか、なんだそのシャツ」
惚けた振りをするのは照れ隠しだろう。
先輩は平静を装うのが下手だ。
そういうのに気付いても言わないのが粋というやつなのだろうか。
気を使ってもらっている事に気付いて気を使ってしまう自分。
まあ、そんな事を考えている時点で決して粋ってやつに私はたどり着けないのだろう。
シャツの袖のボタンを掛けながら心の中で自分に溜息をついた。




