たりないぶたい 10
化粧室を出た私はため息をつく。
柄本萌。
不思議な人だ。
変なシャツを着ていた所も含めて。
その印象はあの時のまま変わっていなかった。
「蘭ちゃんはなんで控え室から出て行ったの?トイレなら控え室の近くにもあったのに」
振り返り私を見つめる西村珠紀。
この人もそうだ。
心の中まで見透かされている様な目。
その目で見つめられると目を逸らしたくなる。
どちらも年下なのに。
どうやって言葉を返すべきか。
戯けて誤魔化してもいいが怪しまれてもいけない。
かと言って素直に理由を言うわけにもいかない。
「会えるかなって思ったんです。柄本さんに。色々聞いてみたくて」
結局言葉を薄めて話すことにした。
核心に迫る部分は言わない。
こうしておけば、怪しまれても対処出来る。
「そうだったんだ!なら言ってくれればよかったのに!」
目論見通り珠紀さんは疑っていない様だ。
私はほっと胸を撫で下ろす。
このグループでやっていくためには先輩達の信用を勝ち取らなくてはならない。
その中でも珠紀さんは最も重要だ。
こんなところで壁を作られる訳にはいかない。
「言ってくれればじゃないの!お願いだから大人しくしていて!」
毎回毎回手を焼いているマネージャー。
同行してもらっていると分かるが、この人は結構隙が多い。
だから簡単に逃げることができてしまう。
「萌ちゃんも頑張ってるんだなー!私達も頑張ってステージ盛り上げないと!」
彼女はスキップしながら廊下を移動する。
こういう所はまだ中学生だなと思う。
行動も言動も真っ直ぐすぎる。
聞いているこっちが少し恥ずかしくなるくらい。
「そうですね!頑張りましょう!」
だけどこれも合わせていかなくてはならない。
私は作り笑顔で珠紀さんの後をついていくのだった。
珠紀と蘭ちゃんが去った後、私はもう一度鏡を見る。
珠紀達も頑張っているのだ。
私も頑張らなくてはいけない。
自分の頬を両手で叩き気合いを入れ、意気揚々と肩で風を切り楽屋に戻る。
扉を開けた瞬間、全員の視線を一斉に集めた事は間違いなかった。




