たりないぶたい 9
「いた!2人とも探したんだよ!」
これも聞き覚えのある声。
顔を真っ青にしている姿も懐かしい。
「マズい!バレちゃった!」
珠紀はバツの悪そうな顔をしている。
本当にマネージャーの目を盗んで逃げてきたのだろう。
「マズいじゃない!少しは自分の立場を理解してよ!」
この言葉も何回聞いた事だろう。
この人も何にも変わっていない。
「お久しぶりです、マネージャー」
私はそんな中声を掛ける。
いつも振り回されているマネージャーを気の毒に感じながら。
「え?あれ?萌?え?なんで?」
顔と声でここまで感情が分かる人はそんなにいない。
表情を読み取る必要が全くないくらいそのままの思った様な顔をしている。
「萌ちゃんはね!このフェスにエントリーしてるの!バンドのメンバーとして!」
自慢げにファンから聞いた情報を話す珠紀。
ただ、それをツッコミを入れるより早くマネージャーの目から涙が零れ落ちる。
「そ…そうなんだ……がん…ばってるんだね」
持っていたハンカチで目をしっかりと抑えるマネージャー。
慣れているせいでなんだか笑えてきてしまう珠紀と私。
ただ、入って半年も経っていない彼女は戸惑った表情をしている。
「大丈夫!いつもの事だから!」
私はマネージャーの背中を優しく摩りながら彼女に言葉をかける。
珠紀も笑いながらマネージャーの頭を撫でていた。
「じゃあ、萌ちゃん応援してるからね!」
珠紀が手を振りながら化粧室を出て行く。
マネージャーに付き添う様にして。
「蘭ちゃんも早く!」
珠紀に呼ばれた彼女は頭を下げゆっくりと化粧室を出て行く。
「蘭さん!」
私は背中越しに彼女に呼びかける。
何かを言わなくては。
その思いが咄嗟に名前を口にさせた。
「サンプリングオリジナルのダンスよかった!私よりもずっと!」
私の言葉を聞いた彼女は微笑んで化粧室を出て行った。
蘭舞菜
エントリーNO.6851
16区ナゴヤに新しい風を吹き込んでくれる子。
だけど、私の言葉を受けたその背中は少しだけ悲しそうに見えた。




