たりないぶたい 8
「久しぶり!元気だった?」
珠紀は相変わらず屈託のない笑顔で笑っていた。
「元気だよ!珠紀はちょっと背が伸びたんじゃない?」
久しぶりに会った珠紀は少しだけ背が伸びていて、前髪も伸びていた。
それに少しだけ大人になっていた。
「4センチくらい伸びたかな?もうすぐ萌ちゃん抜けちゃうから!」
彼女も成長している。
あの頃は毎日会っていたからその変化に気づかなかっただけで、日々大きくなっていたのだろう。
珠紀は何かに気づいたように私から離れる。
「萌ちゃん変なシャツ着てるね!」
見た目は変わったが中身は変わっていない。
本当に彼女は魅力的だ。
「個性的って言って!というか、なんで珠紀私がいるって分かったの?」
シャツの柄が変だなんて今はどうでもいい。
私は一切珠紀はおろかメンバーにも戦楽フェスに出るなんて言っていない。
そもそも、急遽出演が決まったのを知ったのだからいうはずがない。
「ファンの人が教えてくれたの!萌ちゃんがこのフェスに出てるって」
ネット社会はこれだから恐ろしい。
思い当たる節があるとすれば2次選考の時だ。
恐らくあの場にいた誰かがSNSに上げたに違いない。
「でね!会いに行こうと控え室に行ったらここにいるって教えてくれたの!」
この子は自分の立場を分かっていない。
恐らくマネージャーの目を盗んで抜けてきたのだろう。
マネージャーの真っ青な顔が目に浮かぶ。
「珠紀さん!勝手な事したらまたマネージャーさんに怒られますよ!」
私の後ろから声がする。
珠紀に気を取られて彼女のことを忘れていた。
「だって!萌ちゃんに会いたかったんだもん!」
彼女はまだ戸惑っていた。
珠紀の破天荒さに。
私達も慣れるまでは時間がかかったし、仕方ないだろう。
「少しは自分の立場を理解してください!」
マネージャーと同じ事を言っている。
よく考えたら彼女は私より一つ上。
年上の後輩というのも不思議な感覚だ。
「相変わらずね」
私は涙が出るくらい笑った。
今この場所がまるでコントの1場面のようだったから。




