たりないぶたい 7
青地に野菜柄のシャツ。
今見てもいつ見ても派手だ。
これで控え室に戻るのは少し怖い。
でも、このシャツを着ると不思議と気持ちのスイッチが入った。
衣装に袖を通した時と同じ感覚。
これから、ステージに立つ。
その気持ちが衣装を着る事で固まるのだろう。
もう一度鏡をみる。
さっきより顔付きも鋭い。
化粧室から出ようと鏡から離れると、ちょうど入ってきた人とぶつかりそうになる。
「あ、すいません!」
私は反射的にその人と距離を取る。
相手も同様にキレのある動きで身体を躱す。
「あの、柄本萌さんですよね?」
少し間があった後、その人は私の名前を呼んだ。
レッスン着を着たその人を私は知っている。
「久しぶり。あの時以来だね」
あの時、彼女は私の真正面にいた。
私が16区ナゴヤを卒業し、2期生達はお披露目を控えてレッスンを積んでいた時だ。
彼女達の前でスピーチをした。
鳩崎先生の無茶振りに応える形で。
彼女は真っ直ぐに私の目を見ていたからよく覚えている。
「お久しぶりです!あの時はありがとうございました」
彼女はとても姿勢良くお辞儀をする。
その一つ一つの所作がとても美しい。
流れるようにスムーズで、それでいて指先まで真っ直ぐ伸びている。
思わずその姿に見惚れてしまう位だ。
顔を上げた彼女はあの時と同じように真っ直ぐ私の目を見ている。
ほぼスッピンなのに綺麗だ。
同じ綺麗でも小高さんとは違い、目力が強く顔立ちがはっきりしているタイプ。
身長は私より高く足が長い。
背中まで伸びる黒髪が印象的だ。
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西村珠紀の再来。
私の抜けた場所を自分の場所にした子。
何を話そうか。
今更先輩風を吹かしたって意味はない。
私は芸能界から退いた身。
現役の彼女にかけるべき言葉は何か。
考えていた矢先、背中に重みを感じる。
「萌ちゃんだ!萌ちゃんだよね?」
この声、このはしゃぎ方をするのは1人しかいない。
「変わらないな!もう!」
私は首だけを後ろに向け顔を確認する。
間違える訳がない。
私に抱きつき嬉しそうな顔をする人物。
西村珠紀の事を。




