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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
たりないぶたい
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たりないぶたい 6

控え室が騒ついている。

やはりアイドルはすごい。

今まで張り詰めていた部屋の空気が一気に軽くなった。

自分がやっているわけではないのに誇らしい。


ただ、それがここにいる全員でない事は知っている。

耳にヘッドホンをつけて自分の世界に入っている人。

仲間内で相談をしている人。

もちろん、この騒ぎに対して嫌悪感を抱いている人もいることも。


それは当たり前のことで人によって好みは分かれるのは仕方のない事。

ここまで来るまでにどれだけ頑張って来たかなんてその人からすれば関係ないし、興味もない。

そういう人達にも興味を持って貰えるほどの魅力をつける事がこのグループがもっと大きくなる為に必要だ。


私はテレビに背を向け自分のトートバッグから水筒を取り出す。

2次選考の時にも作った自家製マヌカハニードリンクだ。

持ってきた紙コップに注ぎ一気に飲み干す。

一気に飲み干すものではない事は、3年間飲み続けてきたのだから知っている。

ただ飲み干したかったから飲み干した。

理由はそれだけだ。


「またドリンク作ってきました!先輩飲んでください!」

別の紙コップに注いだドリンクを今岡先輩にわたす。

相変わらず仔犬のように小さくなっていた先輩は驚いた様に肩をビクつかせていた。

無理矢理ドリンクを押し付け、私はトートバッグを持ち控え室の出入り口へと歩き出す。


「おい!どこ行くんだ?」


「着替えてきます!」

ドリンクを手に持ったままの今岡先輩に問われた私はそう言って控え室を出る。

彼女達も頑張っているのだ。

私も頑張らなくては。


更衣室がない為、トイレで着替えを済ます。

着替えといってもシャツを着るだけ。

ただメイクの直しもしたかった。


洗面台の前にある鏡で自分の顔を見る。

今日のメイクは少し強め。

アイドルだった頃より明らかにアイラインの引き方が鋭い。

アイシャドウもチークも違う色を使っている。

そうでもしないと、このシャツに顔が負けてしまうからだ。

このド派手な野菜柄のシャツに。

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