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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
赤黄色の胸騒ぎ
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赤黄色の胸騒ぎ 37

「あれ?珍しく柄本が居ない」

楽器屋「RACK」に来た俺と豊田、横井。

俺は店内を見渡し誰もいない事に気付く。


「確かに!あいつも3者面談の期間中の筈なんだけどな」

俺はスマホを見るが、柄本からは何の連絡もない。

今日は自主練なのだから連絡する義務はない。

最近はその根底を忘れる位、柄本がいない事が違和感を感じる様になっていた。


そもそも、別に誰が言った訳でなくバイトのない日は自然とここに集まっている。

部活とは違うけど集まるのが当たり前になりつつあるのだ。


スタジオに入った俺達は誰と合わせる訳でもなく、各々が自分の楽器パートを練習していく。

それは、柄本が居てもいなくても変わらない。


「念の為、新曲を試しに何曲か作っておいた方が良くないか?3次選考では使わないから今後の為という事になるけど」

自主練の合間一息付いていると、横井が俺に問いかけてくる。


それを聞いた俺の心臓は誰かに握られた様に急激に鼓動を速める。

俺も横井の言った事はずっと考えているし、楽譜とは向き合っている。

だけど、全然ペンが動かない。


今回の曲は観客の前で披露していない。

だからだろうか。

3次選考の観客の反応が怖い。


今の自分の曲作りの取り組み方でいいのか。

このまま、自分の感性を信じていいのか。

自分達の曲を誰も興味を持ってくれないかもしれない。

3次選考の事を考えると、そんな考えが頭を巡って書き出すことができずにいる。


「一応製作中だよ」

そうやって誤魔化すかなかった。

素直にこの2人に言えないのは、ただの強がり。

こんな所で、意地を張っても仕方ないのだが。


俺は一度スタジオを出て、1階の楽器屋に戻る。

トイレに行く為、ついでに気分転換をする為だ。


時刻は午後5時。

夕焼けには程遠い程、外は明るい。

スタジオに来て既に3時間以上経っている。

どれだけ練習しても、練習し足りない。

柄本が毎日スタジオにいた気持ちが今ならわかる。


馴染みのステージじゃない。

俺にとっては初めての経験。


とりあえず、全部放り出してしまいたい。

何も考えずに曲を書きたい。

でも、この選考を通して新しい価値観に出会えるかもしれない。

今ある課題から逃げるか、向き合うか。


俺にとって、どっちが幸せなのだろう。

その答えから逃げる様にスタジオに戻るのだった。

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