赤黄色の胸騒ぎ 34
「それで?人前に立つって言ってたけど、詳しく聞いても大丈夫?」
店長はカーテン越しに私に問いかける。
「別に大した事じゃないんです。今やってるバントでステージに立つ機会が出来たんです」
大した事じゃない。
そんな訳はない。
でも、無意識に謙遜してしまう自分がいた。
「なるほど!それでステージ用に服を買いに来た感じね」
「そういう感じです。ただ、何を着ればいいのか迷ってて…」
試着した状態を見せるため私はカーテンを開ける。
腕を組んでその姿を見つめる店長。
私が今着てるのは真っ黒なワンピーススタイルのTシャツ。
七分袖のサイドには茶色のラインが入っている。
店長はしばらく考えた後、おもむろに古着が並ぶコーナーに歩いていく。
服を選ぶその目は真剣そのもの。
私は人形の様に固まったまま、ただただその姿を見つめる。
その道の人間がする真剣な表情は、なんて人を惹きつけるのだろう。
しばらくして何点か服を見繕った店長はその服を私に渡す。
先程の表情に魅了された私は、促されるがまま試着室に戻る。
服に袖を通す際に鼻に入る古着の匂い。
あまり古着を着たことのない私だが、その匂いは記憶の中にある。
音が流れてくる。
それは、好きなバントの曲の1小説。
その音と共に記憶の引き出しが開く。
よく足を運ぶ中古CDを扱うショップの匂い。
味のある時を重ねた匂い。
そんな匂いに気を取られ、服を試着し終えた私は鏡を見て驚愕する。
袖を通した藍色のシャツはどう見てもオーバーサイズ。
というか、ド派手という言葉が似合う柄シャツ。
所狭しと野菜の柄がデザインされている。
しかもあわせるのは真っ黒なロングスカート。
少しプリーツが入っている。
何も考えずにこの服を着たが、店長は私がどんなバントにいると思っているのだろう。
それよりも、こんな個性的な服がこのお店に置いてあったことに驚いている。
これをこのお店に置くセンス。
一体どんな人がこの服を買っていくのか気にならずにはいられなかった。




