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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
赤黄色の胸騒ぎ
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赤黄色の胸騒ぎ 32

「やっぱり柄本さんはなんでも似合いますね」

私は彼女に促されるまま様々な服を試着している。

さながら、ファッションショー。

彼女は私が試着室から出る度に嬉しそうな顔をしてくれる。


その反応を見たら私も段々乗り気になっていく。

新しい服を着ると新しい自分になれる。

服を試着する度、鏡を見るのが楽みになっていた。


バンドにいる私はどんな自分でいるべきか。

ステージに立つ姿を想像しながら鏡の前で考えて見る。

思えば、ステージに立つ時の衣装は決められていた。

早着替えなんて当たり前。

曲が終わる度に衣装を着替えていた。


「どうかしましたか?」

鏡を見つめたまま動かない私に小高さんは不思議そうに尋ねる。


「柄本さん、加奈子ちゃんが色んな服を勧めるから混乱してるんじゃない?」

そういって声を掛けてきた女性。

ライトブルーのワイドパンツに白のオーバーサイズニット。

藍色のキャンバススニーカーに丸メガネ。

髪はセミロングで後ろに束ねられでいる。


服の着こなしから一目で店長だと分かる。

理由はなんとなくだが小高さんはこの人と雰囲気が似ているから。

多分、無意識にこの人に寄せている為だろう。


「私の事を知ってるんですか?」

こんなお洒落な人がアイドルの事を知っている。

その事に私は驚く。


「テレビで見た事あるわ。16区ナゴヤはこの街で見ない日はないもの。それに、加奈子ちゃんから散々貴方のことは聞いていたし」

名前を覚えてもらったのはきっと小高さんのおかげだろう。

自分で言うのは恥ずかしいが彼女は私のファンだったのだから。


「やっぱり生で見ると可愛いよね!私みたいなおばさんと違って顔も小さいし肌の張りが違うわ」

私の顔をまじまじと見る店長らしき人。

果たして歳は幾つなのだろう。

失礼だとは思うが私は顔を見てそう思った。

化粧で着飾った綺麗さではなく、歳を重ねた綺麗さがこの人にはある。


この事を正直に言っても素直には受け取ってくれないだろう。

私にはまだこの人を信じさせるだけの説得力を持った綺麗さを持っていないのだから。

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