卒業のあと 17
集会の帰り道、私は乗ってきた自転車を押して歩く。
なぜ乗らないのかというと、耳にヘッドホンをしているからだ。
耳には今岡先輩の作った仮音源が流れる。
音源は貰った日に聴く。
あの頃も今も習慣になっている。
すでに4回は聞いただろうか。
今岡先輩の裏声にもすっかり慣れてきた。
”コーラスか…”
サビの部分に入り声が重なる。
歌う事になるとは思っていなかった。
別に歌う事は嫌いじゃない。
自分でいうのも恥ずかしいが、それなりに歌は上手い方だ。
だけど、もう歌うことはないと思っていたし、歌わなくてもいいと思っていた。
私が入ることで、バンドのイメージを壊してしまうのではないか。
それが不安なのだ。
相変わらず人通りは少ない。
すれ違う人はスーツ姿の人が多くなる。
多分みんな私より年上だろう。
それぞれが、色々な事を考えながら歩いていると思う。
だけど、何を考えているかは分からない。
逆に私が、今何を考えているかもきっと誰も分からない。
自転車を漕いでいる時とは違い、足は勝手には進んでくれない。
進まない足を無理やり動かし帰路を歩く。
今日は、色んなことを考える日だった。
5回目のリピート再生が終わる。
いつも、新しい曲を貰うたびにワクワクしていた。
今回もそのワクワクはある。
それと同じ位の不安もある。
“この矛盾した気持ちを忘れないでおこう。”
そう心に刻む。
6回目の前奏が始まる。
この曲の中の“あの子”は何を考えているのだろう。
背中に背負ったベースが少し重たかった。




