卒業のあと 16
使い込んだ木の机を囲み楽譜読みが始まり、みんな真剣に机に向かっている。
店内は、また静かになった。
私も楽譜を読み進めてていたが気になる事があった。
「このcho.って何ですか?」
サビの部分にある私の名前と「cho.」の文字。
「それは“chorus”の略だな。そういえば今回、入ってるよな。」
豊田先輩が楽譜を見ながら呟く。
コーラスというパート。
ボーカルの音程を支えたり重ねて深みを出す役割だ。
自由に歌えるボーカルと違い、空気を読んで歌うというのがコーラスだと私は思っている。
「私がコーラスですか⁉︎」
私は驚いていて思わず声をあげる。
今岡先輩とは小学校の時からの付き合いだが、バンドでの付き合いは短い。
いきなりそんな役割を任されて大丈夫なのか…
正直、声を合わせることが出来るのか不安だ。
「大丈夫でしょ。そんなすぐに出来る様になれなんて言わないしさ。それに…」
何かを言いかけて、今岡先輩はやめてしまう。
続きを聞こうと思ったが、なんでもないと首を横に振られてしまい聞くことは出来なかった。
「ちなみにだけどさ、このコーラスの声って…」
横井先輩は、すでに過ごし笑っている。
先輩は仲良くなっていくと、ちゃんと表情が豊かだということに気づく。
「ん?それは俺の裏声!」
今岡先輩の言葉に3人で吹き出してしまう。
全然、違和感がない事が面白い。
むしろ裏声で歌われても、そういう声だと言われれば全然やっていけてしまいそうなくらいの声だ。
ただ、自分の裏声をアプリに録音している姿を想像するとやっぱり面白い。
今岡先輩の裏声の話で盛り上がりながら、その日の集会は終わりを告げた。
外は少し暗くなり始めていた。




