ありがちを叫びたい 48
机に向かう私。
シャーペンを持つ手には相変わらず絆創膏。
ここは楽器屋「RACK」
いつも静かなこの空間。
文字を書く音だけが響く。
「あ、しまった。悪い。柄本シャーペンの芯くれない?」
「いいですよ。0.3しかないですけどいいですか?」
また文字を書く音が響く。
お互いの存在をその音で認識する。
私の正面には横井先輩。
今日は横井先輩がここに来ていた。
学校の図書室で勉強しようと思ったが、一杯だったためここに来て勉強する事にしたらしい。
その時は何も思わなかったが、時間が経つにつれおかしな事に気づく。
私や豊田先輩、今岡先輩は同じ小学校でこの楽器屋からあまり遠くない。
だから、図書室代わりにここを利用してもおかしくはない。
でも、横井先輩は違う。
この街とは真逆の方向に自宅がある。
わざわざこっちに来るメリットがないのだ。
勉強の合間、横井先輩に視線をうつす。
先輩は勉強に集中している。
本当に勉強をしにここに来ている様だ。
気になりながらも、私は勉強に視線を戻す。
しばらく勉強しているとお店の扉が開く。
「あれ?瑛太だけかと思ったら柄本もいるじゃん。意外だな。」
失礼なことを言う。
私はテスト週間が始まった時からここに来ている。
むしろ、横井先輩の方が珍しい方なのだ。
そんな私の気持ちなんてつゆ知らず。
豊田先輩は店長に挨拶した後、私達のテーブルにやって来る。
背中にはギターケース。
しかも、手にはスタジオの鍵。
勉強をしに来たのではないと明らかだ。
それを見た横井先輩は勉強道具をしまい始める。
まるで待ってましたと言わんばかりに。
そうなれば、さっきの疑問も解決する。
先輩はこれ目的でここに来たのだ。
それなら、私にも言ってくれたら良かったのに。
私もノートを畳み立ち上がる。
「私も混ぜてください!」
横井先輩と豊田先輩は驚いて顔を見合わせる。
「いいぞ。一緒にやるか!」
その言葉を聞いた私は店長にベースを借りスタジオに降りていく。
勉強は後でいい。
私は叫びたいのだ。
テスト週間は続く。
ただ、私はスタジオで叫んでいた。




