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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
ありがちを叫びたい
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ありがちを叫びたい 47

その夜、私はベースを抱えていた。

ベースを弾きたいという衝動を抑えられない。

家に帰ってからずっとベースを弾いている。

夕方あれだけ勉強したのだ。

夜の1時間位練習してもバチは当たらない筈だ。


“なんかやる気にならないんだよな”

今岡先輩の言葉を思い出す。

不思議な話だ。

私は先輩の演奏を聴いて勉強をする気になった。

でも、先輩は勉強をする気に慣れなくて現実逃避していたのだから。


単純に勉強したくないから逃げている訳ではないだろう。

その気持ちは私にも分かる。

先輩はただ気持ちをまだ整理出来ていないのだ。

悔しい気持ちを一発で切り替えれる程大人じゃない。

気持ちとの向き合い方は人それぞれだ。

私はその方法として勉強を使っただけ。

決して、気持ちを切り替えられた訳じゃない。


ベースを弾く手を止める。

まだ、2次選考なのにこんなに気持ちが揺れる。

この調子でこの先大丈夫なのだろうか。

このフェスだけじゃない。

私達が進もうとしている先は一喜一憂していられる世界ではないのだ。


ベースを置きベットに飛び込む。

ずっとモヤモヤしている。

最近ずっとモヤモヤしている。

モヤモヤ以外の言葉が出てこないくらい気分が晴れない。


こんな時誰かに電話したくなる。

スマホで連絡帳の名前をなぞって行く。

だが、しばらく連絡帳を眺めた後スマホを投げる。

連絡帳には16区ナゴヤのメンバー、もしくは小学校の時の友達。

今の私の事を知っている人は誰もいない。


バンドをやっているとか、転校して来た学校のテストに手を焼いているとか、連絡帳にいる友達は誰も知らない。

だから、自分と同じテンションで話せないし、その事で気を使わせたくないと思ってしまう。


うつ伏せになり枕に顔を押し付ける。

現実は忙しい。

考える事だらけだ。

いや、私が偏屈なだけなのかもしれない。

なんてめんどくさい女なんだろう。


枕に向かって叫ぶ。

「私のバカー」

ありがちな言葉だが今の気分にはぴったりの言葉。

誰にも聞こえない声が枕に吸い込まれて行った。

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