ありがちを叫びたい 46
冷静になるとなんだがムカついてくる。
隣にいたのになぜ一言も話しかけてくれなかったのか。
そもそも、スタジオに入る時も戻ってきた時もなんで私に声をかけてくれないのだろう。
そうすれば、こんな事にならなかった筈だ。
眠そうに目を擦る今岡先輩を私は睨みつける。
「柄本なんでそんなに睨んでるんだよ。椅子は転がってるし、お前は床にヘタレ混んでるし、俺何かしたか?」
「先輩が黙って私の反対側で寝てたから驚いて椅子も蹴飛ばしてしまったんです!一声掛けてくれても良かったじゃないですか!」
未だに状況が分かっていない今岡先輩の言葉に被せる様に怒る。
怒りのせいか言葉が前かがみで出ていく。
だが、今岡先輩は腑に落ちない顔をしている。
「俺一応声掛けたんだけどな」
前かがみになっていた私は急ブレーキをかけ口を塞ぐ。
「え?聞いてないですよ私」
ブレーキが間に合わず言葉が漏れる。
どうやら、今岡先輩は私に声を掛けたのだが、反応がなく勉強の邪魔になってはいけないと気を使ったらしい。
怒りが急激に冷えていくのも感じる。
冷や水を浴びせられるとはまさにこの事。
先程までの前かがみの自分は今直立不動で動けなくなっていた。
「本当にすいませんでした」
楽器屋「RACK」を出て今岡先輩と歩く帰り道、戦意喪失しすっかり冷え切った私は力なく謝る。
「気にすんなって。柄本も勉強に集中してたわけだし、俺だっていきなり人が正面にいたら驚くだろうし」
先輩は私を慰めてくれているのだろう。
その優しさに申し訳なさが加速する。
自転車を押して帰る私達。
ギターケースを背負って歩く今岡先輩と、パーカーのフードだけが上下に揺れる私。
「先輩はテスト勉強大丈夫なんですか?」
自転車のカゴで揺れる私のトートバッグ。
中身は教科書とノート。
だけど、先輩のカゴの中は空っぽのペットボトルだけが踊っている。
「なんかやる気にならないんだよな。シャーペン握って教科書開いても全然集中出来ないし」
そう言って空を見上げる。
その横顔にはしっかりと木の木目の跡が付いていた。




