ありがちを叫びたい 45
扉から身体を離し階段を上がる。
動こうとする指を抑えつけながら。
もっと聞いていたいけれど私にもやる事がある。
真っ直ぐに机に向かう。
それが私のやるべき事。
先輩の演奏を聞いていたらその事を強く感じた。
もちろんベースを弾きたい気持ちはある。
でも、弾きたい気持ちを必死に抑えて机に向かう。
勉強をする。
私は高校生なのだ。
家に帰ったらまたベースの練習をすればいい。
好きな事をやるには切り替えが大切。
宿題をやらないとゲームをやらせて貰えない小学生みたいにノートに噛り付く。
勉強もひと段落つきノートから顔を上げる。
肩が凝り固まっている様だ。
そのせいか少し頭が痛い。
シャーペンを置きこめかみを軽く抑える。
時計を見るともう8時に近づいていた。
結局、閉店時間まで私は机にへばり付いていた様だ。
ふと、スタジオの方を見ると扉は閉まり壁に戻っている。
流石に先輩は帰ってしまった様だ。
“声かけてくれても良かったのに”
ふて腐れながら勉強道具を片付けるために顔を机に戻す。
「きゃー!」
思わず声を上げ立ち上がる。
慌て過ぎて椅子を蹴飛ばしてしまい転がっていく。
机を見たら私の反対側で誰かが突っ伏して寝ているのだ。
「嬢ちゃんどうした?」
音に気付いた店長が店の奥から出てくる。
「つ、机にだ、だれか寝てるんです!」
私は怯えながら机を指差す。
壁にへばり付いたまま。
店長は私が指差した先をみる。
「なんだ。坊主じゃないか」
店長はホッと肩を撫で下ろす。
「え?あ…え?」
店長の反応に拍子抜けしながら恐る恐る机をみる。
よくみると見慣れた髪型。
騒ぎに気付いて顔を上げるその人の顔はよく知っている人。
「ん?なんかあったのか?」
寝ぼけ眼で周りを見渡す今岡先輩。
自分のせいで騒ぎになっているなんて思ってもいない顔をしている。
自分の早とちりだったが心の底から驚いた。
いくら勉強していたとはいえ、全く気付かなかったからだ。
私はホッとして尻餅をつく。
肩凝りなんてどこかに行ってしまうほど力が抜けていた。




