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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
ありがちを叫びたい
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ありがちを叫びたい 39

「アイドルが今度はバントごっこかよ」

控え室の隅でボソッと呟く声がする。

やはりよく思わない人もいる。

それは悲しい事だが、仕方のない事。

よく分かっているつもりだ。

だが、やっぱり久しぶりに聞くと少しムカつく。


“事実だけが信用に値する”

私を知らない人からすれば数多くいるアイドルグループの中の1メンバーにしか過ぎないし、ましてやその中の1番ですらない。

知られていないのは私の実力不足だ。

自分がその中でどれだけ頑張っていたかなんて、興味のない人には分からない。

自分にそう言い聞かせ拳を握りしめる。


“いつか見返してやる!”

そう心に誓った。

絶対にその顔は忘れない。

笑顔のその裏でしっかりと目に焼き付ける。


「柄本!そろそろ帰るぞ!」

今岡先輩が私を呼ぶ。


「あ、はい!」

私のアイドルスイッチがOFFになる。

今は完全にただの後輩に戻る。

私の周りにいる人達に頭を下げると自分の荷物を片付けに戻る。

この時やっと自分のベースを先輩達が片付けていた事に気付いた。


身の回りのものをトートバッグに詰め込む。

先輩達には既に帰り支度を済ませている。

慌てて片付けを終わらせ先輩達の後に続く。

審査の終わったバンドは帰っていいと言われている。

本当なら他のバンドとの交流をするべきなのだろうが、今はそんな気分ではない。

ましてや、私が元アイドルとバレてしまった以上長居は危険だ。


「ありがとうございました」

深くお辞儀をし控え室を出る。

控え室にいた人達と、控え室という場所に感謝を伝える為。

これは、お母さんに教えてもらった事。

どれだけ嫌な事があっても、場所や人にはちゃんと感謝をする。

それが、大人になるために必要な事だと。


控え室の扉を閉め先輩達の背中を追う。

割と狭い通路を抜け出口へと向かっている。

と言っても、入って来た時も同じ所から入ったのだから入り口でもある。

だけど、この扉を最初に通った時とは全く違う感情で通るのだから多分出口で合ってると思う。

私を出迎える出口に太陽の光が射していた。


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