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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
ありがちを叫びたい
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ありがちを叫びたい 35

私は気づいてしまう。

審査員の反応が芳しくない事に。

良いパフォーマンスをすれば自然と盛り上がると思っていた私は一気に不安になる。

この状況は私達にとってよくない。

こんな状態では、曲の中に入り込めなくて当たり前だ。


バンドでの経験値が少な過ぎる。

自分の経験不足を痛感していた。

こんな時どうするべきか私では分からない。

自分で何とか出来ない以上、先輩達に一刻も早くこの事を知らせなくてはならない。


私は思考を巡らせる。

ここで一番やってはいけないのは、審査員に焦りを悟られない事。

だから、あくまで自然に先輩達に近づく必要がある。

ステージに立ってきた数は人並み以上にあると思っている。

悟られずに言葉を伝える方法なら知っている。


私は意を決して、ベースを弾きながらステージを歩く。

音に乗るように。

勝手に身体が動いているように。

さながらスパイ映画の主人公だ。

審査員に悟られない様に、あくまで自然に。


今岡先輩に近づく。

そして目線で訴えかける。

そんな事、先輩には一度もやったことないが一か八かだ。

こればかりは先輩を信じるしかない。


今岡先輩は私の目を一瞬観て目線を審査員に向ける。

どうやら、意図は伝わったみたいだ。

そして、音の出し方を変える。

変えるとは言っても、普段一緒に演奏している私達でも気をつけなければ分からないほどほんの少しだけ。


さっきよりも音が跳ねてる。

伸ばし気味だった音を少し切り気味で、細かく出す様になった。

それに合わせる様に、豊田先輩のギターも音の出し方が変わっていく。


さっきよりも演奏が軽くなった。

今岡先輩少し変化を付けただけで、小さな暗い箱の中でギターの音が際立つ。

私と横井先輩は足並みを揃えリズムを整えていく。


曲は二度目のサビに入る。

この演奏に合わせる様に声を乗せると、ボーカルの今岡先輩の声がさっきよりも映える様な気がする。


“気持ちはいつも快晴”

ノートに書いた言葉を思い出す。

緊張していて忘れてしまっていた。

私の頭の中でノートの文字達が溢れ出した。

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