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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
ありがちを叫びたい
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ありがちを叫びたい 34

静寂に包まれたステージ。

小さな箱に観客席はない。

長いテーブルと3人の観客。

いや、この人達は審査員だ。


すでに、審査は始まっている。

私の頭がその事を理解する間も無く、機材に楽器を繋ぐ。

もっと手こずるかと思ったが、私の無意識は意外と冷静みたいだ。


「エントリーNO.223番「vacant land」です。よろしくお願いします」

今岡先輩の挨拶と共に私達は深々と頭を下げる。

その時、ようやく審査が始まっているという事を実感した。

頭を上げると審査員は、手で合図をし私達に演奏するように促す。


それを見た今岡先輩が軽くギターを鳴らす。

それが始まりの合図だ。

いつもと変わらないリズム。

緊張感はある。

だけど、気持ちはできている。


演奏が始まる。

出だしは悪くないと自分でも思う。

今岡先輩、今日は声が出ている。

マヌカハニーのおかげだろう。


審査員の方を一瞬盗み見する。

各々の聞き方で私達の演奏を聴いていた。

目を閉じて音を聞く人、私達の方をジッと見ている人、気づいた事をメモする人。

なんにしろ、ちゃんと演奏を聴いてくれている。

とりあえずその事に安心する。


曲は進んで行く。

もうすぐ最初のサビだ。

正直、音の出し始めより緊張している。


私も声がちゃんと出るだろうか?

発声練習はした。

マヌカハニーも飲んだ。

きっと大丈夫なはずである。


自分で自分を鼓舞しながら迎えた私の第一声。

痰が絡む事なく、音を外す事なく先輩の声に重なる。

ちゃんと声も出ている。

声が出ていると分かれば問題ない。

ベースの演奏に集中する。


潜れば潜るほど曲の中に入り込んでいく。

気づけば目の前の景色は小さな暗い箱から、木枯らしの吹く街に変わっていた。

最近ずっと見ている景色。

今日もまたあの子と追いかけっこだ。


だが、一歩踏み出そうとした瞬間、暗い箱に戻される。

いきなり現実に戻された私。

ベースを弾きながら前を向く。

私の無意識はやはり冷静みたいだ。

遅れてやっていた違和感がその事を教えてくれた。

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