卒業のあと 13
先輩達の出番が終わり、私も帰ることにした。
私は未成年で、あまり夜遅く帰る事は許されていないし、次の日も朝から予定がある。
だが、ライブハウスではまだライブが行われており観客は多い。
そんな人の間を縫って出口を目指す。
混み具合としては、通勤時間の満員電車と同等かもしれない。
モーゼの十戒みたいに人混みが割れて道ができることはないため、小さい身体を懸命に伸ばす。
人の流れに逆らって動くのは簡単ではない。
その姿を見た男性の二人組の一人が隣の友人に囁く。
「あの子ってさ、どっかで見たことない?」
隣の友人も少し考え納得した様な顔をする。
「もしかしてあの子って…」
私はその言葉を聞き終わる前に出口を出る。
とりあえず、あの人混みを抜けることが出来た事に安堵し、ため息をつく。
それは、気付かれる前でよかったと思う。
ただ少しだけ、頬は緩んでいた事には気付かないふりをした。
帰り道、少し伸びをして息を吐く。
立ち見だった為、足が少し重い。
だけど、その重さも今日は嫌いじゃない。
もっと言葉を学びたい。
色んな事を言葉で表現できるようになりたい。
まだまだ、私だって成長していける。
「理想は高く、夢は大きく!」
柄にもなく熱いことを言っている。
でも、このスローガンを掲げてみんなで頑張っている。
いつもはちょっと恥ずかしいが、今日は言いたくなった。
足が少し重い。
でも、少し走り出したい気分だった。
“スニーカーで来て良かった。”
ユーズド感のあるスニーカーで軽くスキップしてみる。
そのリズムで長い髪が揺れる。
この後、周りの視線を感じて恥ずかしい思いをしたのは今でも覚えている。




