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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
ありがちを叫びたい
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ありがちを叫びたい 33

“上手い!”

それは、私でも分かる位だ。

先輩達が分からない訳がない。


「俺たちの前にいたバンド相当上手いな。ギターもベースも一人一人のレベルが相当高いぞ」

ステージ裏、一番近くでその演奏を聴いている私達。

今岡先輩が驚いているのも無理はない。


“このバンド意思の疎通がしっかりしている”

ギターの音に、ドラムのリズム、ボーカルの声に至るまで聞かせたい音がはっきりとわかる。

歌詞はシンプルなのに内容量は多い。

多分、私達が同じ楽譜で同じリズムで弾いても同じ様には聞かせられないだろう。

それくらいメンバーの世界観がしっかりしている。


「柄本、手が止まってるぞ」

横井先輩に言われ、手が止まっていた事に気付き慌てて楽器の調整を再開する。

自分でも気づかない内に演奏に聞き入っていた。


楽器の調整が終わる頃には、バンドの演奏が終わり審査員から総評を貰っていた。

1曲が終わるのはあっと言う間だ。

忘れてはいけない。

次に演奏するのは自分達だという事を。


出番を待つステージ裏。

この瞬間はなんとも言えない感覚だ。

緊張と興奮のバランスが常に揺れる。

ただ、これまでと違うのはこれから立つステージはとても静かだという事だ。

こんな経験は初めてで、未知の体験に頭がついてくるか不安になる。


「柄本すまんな」

今岡先輩の声が聞こえると同時に背中に痛みが走る。

痛みが身体を巡る前に追い打ちをかける様に第二波がやってくる。


「痛い!」

痛みが身体を巡る時間で何が起きたか十二分に理解出来た。

だが、やり返す前にステージに呼ばれてしまう。


「終わったらやり返していいぞ」

横井先輩が私の肩を軽く叩きステージに向かう。

叩きたい背中の後を私は追う。

背中の熱が身体中に広がっていく。

体温が上がっていくのが分かる。


“これでいつも通り”

私が拳を握ると、二つの手が私の背中を押す。

振り向かなくても、誰の手か分かる。

どちらの手も背中が覚えている。

4人分の気合いを背中に受け、ステージに向かうのだった。

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