ありがちを叫びたい 31
「いって!!」
豊田先輩は慌てて背中を摩る。
その声や音に、控え室にいた全員の視線が私達に集まる。
だけど、恥ずかしくなんかない。
間髪入れず横井先輩の元に向かう。
「俺は大丈夫だから」
壁にもたれかかり背中を守る。
横井先輩だけは冷静だった。
背中を見せない様に細心の注意を払っていおり隙がない。
とりあえず、横井先輩は諦め一つ大きく息を吐く。
すると、背中を突然の激痛が襲う。
「痛い!」
涙目になりながら振り向くと、今岡先輩と豊田先輩が笑いながら手のひらを開いている。
私の背中を叩いたのはこの2人で間違いない。
「ちゃんと謝ってから叩いたじゃないですか!」
背中がヒリヒリする。
「怒ってなんかないさ!ただ、お前に気合い貰ったからな!お返しだよ」
二人とも笑っている。
今岡先輩の唇はちゃんと血行の良いピンク色に戻っていた。
「緊張は取れましたか?」
涙を拭き、私も笑顔で先輩達に問いかける。
「バッチリ!」
先輩達は二人共親指を立てる。
だが、横井先輩だけは浮かない顔をしている。
「気合い入れるのはいいけど、お前のせいで他のバンドからめちゃくちゃ見られてるぞ」
それは分かっていたが、改めて見渡すと恥ずかしい。
明らかに私達を好奇な目で見ている。
また私達は大人しくなった。
だけど、さっきとは違い笑顔が増えた。
「あ、そうだ!」
私は思い出した様にトートバッグを漁り水筒を取り出す。
さらに、紙コップを取り出し水筒に入っていた液体を注ぐ。
「先輩飲んでください!」
今岡先輩にそれを差し出す。
コップの液体を怪訝そうに見ながら一口、口に含む。
先輩は眉間にシワを寄せながら液体を飲み込んだ。
「なんだこれ!薬の味するぞ!」
先輩の舌には合わなかった様で、舌を出し苦味を飛ばそうとする。
「これマヌカハニーをぬるま湯で割ったもので喉にいいんですけど、先輩には合わなかったみたいですね」
マヌカハニーはその名の通りニュージーランド原産のハチミツで殺菌効果が高く、喉に良いとされている。
私はアイドル時代、ボイストレーニングの先生に教えて貰い、歌を歌う日は毎回持参していた。
だから、効果は実感済みだ。
ただ、味のクセが強く飲みにくいのが短所だったが、やっぱり慣れていないと飲みにくい様だ。




