ありがちを叫びたい 30
「私は西村珠紀っていうの。お姉さんは?」
なんだろう。
この光景を見たことがある。
デジャブの様に頭の中を映像が巡る。
沢山の人が集まるオーディション会場。
緊張感漂う控え室。
紫の唇。
全て見た事がある。
“あ、そうか。私は初めてじゃないんだ”
私は思い出す。
見ず知らずの同い年の女の子が集まり、審査員の前でダンスをしたり歌を歌ったりした時のことを。
オーディションの時、隣に座っていたのはまだ小さかった珠紀。
誰も話す人が居らず心細かった私に最初に話しかけできたのが彼女だった。
まだ小学生の彼女だが、誰よりも堂々としていた。
ダンスも歌も決して一番上手な訳ではない。
だけど、何事にもめげずひたすら前を向いていた。
キャプテンもそうだ。
オーディションの時から誰よりも気を遣い、声をかけていた。
自分も怖いはずなのに、もしかしたら落ちるかもしれないのに。
そんな素振りを絶対に見せない様にしていた。
その姿に励まされ私は緊張を乗り越えることができたのだ。
スマホの画面は合格発表の日に初期メンバー全員で撮った思い出の写真。
あの日の事は忘れない。
沢山の仲間ができた日。
そして、私の、いや、私達の夢が始まった日。
いつもそうだった。
ライブ前、緊張するといつもこの写真を見てあの日の事を思い出していた。
私はスマホを握りしめる。
そして勢いよくトイレを飛び出す。
走っているあいだ、珠紀やキャプテンの事が頭に浮かぶ。
今は側にいないけど、二人の後ろ姿を追う。
その背中は私の作り出した幻だ。
でも、私に力を与えてくれている。
幻を追い抜くと急に背中が熱くなる。
その熱さを抱え、私は迷う事なく控え室へと走る。
「先輩すいません!」
謝ると同時に思いっきり背中を叩く。
静かな控え室に私の背中を叩く音が響く。
こういう時珠紀やキャプテンならこうしていた筈だ。
非常に原始的だが、一番効果がある。
「いて!いきなり何するんだよ!」
背中を叩かれた今岡先輩は驚いて私の方を振り向く。
だが、私はすでにそこにはいない。
間髪入れず、豊田先輩の背中を叩いていたから。




