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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
ありがちを叫びたい
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ありがちを叫びたい 29

会場に着くとエントリーを済ませ、狭い控え室に押し込まれる。

控え室には沢山のバンドが集まっている。

20組くらいはいるだろうか。

それぞれが、思い思いの過ごし方をしている。


二次選考は全国5箇所で行われている。

私達はその内の一つ名古屋会場で選考を受けることになっていた。


「知ってるか?去年曲の途中で止められたバンドが何組かいて、そいつらは全員落ちたらしい」


「らしいな。ここの審査員結構厳しいらしい」

静かな控え室で、どこかのバンドの話し声が耳に入ってくる。


「マジかよ」

口数がほぼ無くなった私達のバンドで、久しぶりに口を開いたのは今岡先輩。

ただでさえ緊張しているのに、今の話を聞いてしまったら更に緊張してしまう。

案の定今岡先輩は唇が紫になりはじめていた。


緊張感の漂う控え室。

関係者の方からの説明を受け、順番にバンドが呼ばれていく。

二次選考は各バンドが1曲を審査員の前で披露するというものだ。


1組ずつ呼ばれるたびにそのバンドの緊張が伝わってくる。


“早く終わって欲しいけど、いつまでも来て欲しくない“

審査会場に向かうバンドを見るたび、心の中はそんな感じだ。

喉は渇くし、鼓動は早い。

他のバンドが大きく見える。


その場の空気に耐えられなくなった私はトイレに逃げ込む。

小さな個室で頭を抱える。

このままではいけない事は分かっている。


“こんな時私はいつもどうしていたっけ?”

ここよりも大きな会場で沢山の人の前で私はコンサートに出ていた。

その度に緊張していたはずだ。

でも、それを乗り越えいつもステージに上がっていた。

自分の記憶に問いかけるが何も浮かんでこない。


困っていると、スマホの着信音が鳴る。

緊張してスマホをマナーモードにするのを忘れていた。

スマホの待ち受け画面にはメールの受信を知らせるタブが表示されている。

メールの送り主は、服のショップのメルマガ。

今のこの状況の私には全く必要のないものだ。

だけど、待ち受け画面を見たまま私は動きを止める。


さっきまで何も浮かばなかったのに、自分の頭の中にとめどなく映像が流れ込んできた。


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