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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
ありがちを叫びたい
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ありがちを叫びたい 28

後ろにいる先輩達をなんとか誘導しながら、なんとか地下鉄に乗り換え電車に乗り込む。


「柄本は凄いよな。あんな人混みの中ベース背負ってスイスイ歩けるんだから」

今岡先輩はため息をつく。

なんだか、さっきよりもさらに痩せた様に見える。


「まあ、毎日通ってた通学路ですから慣れっこです」

この駅も、これからいくライブハウスがある駅も学校に行く為使っていた。

だから、迷う事はない。


「にしても、凄い駅だよな!外国人も沢山いるし、サラリーマンに学生、色んな職業の人間があんなに沢山集まってるんだから」

今岡先輩の言った言葉に、私はピンとこない。

人混みを掻き分けて進んでいたが、どんな人とすれ違ったなんて全く覚えていないから。

ふと、車内を見渡すと私達みたいにギターケースを背負った若い人達が至る所にいる。

私達と同じ場所に向かうのだろうか。

全く気付かなかった。


この街でいちいちそんな事を気にしていたら疲れてしまう。

だから、無意識のうちに人を見る事をしなくなってしまっていた。


そんな事を考えたら急に鼓動が早くなるのを感じる。

手も少し汗をかきはじめていた。


私は緊張しない。

当日の朝までは。


目的の駅に着いた頃には私の口数は数える程に減っていた。

手もしっかり汗を掻いている。

そう、私は本番が近づく程緊張する性格なのだ。


電車を降りるとギターケースを背負った若い人達も一斉に降りて来る。

やはりこの人達も私達と同じ様に二次選考会を受けに来た様だ。

こうして、ギターケースを背負った集団は目的のライブハウスに向かう。

私達を飲み込んで。


塊に飲み込まれた私達は一言も言葉を交わす事なくただ歩く。

いや、歩いているというより引っ張られている。

みんな向かう所は同じだと理解しているのだろう。

何も語らずとも真っ直ぐ目的地に向かって進んでいた。


目的のライブハウスが見えると、鼓動が更に早くなる。

同時に塊の足取りも早くなる。


入り口の前まで来た時、私は立ち止まる。

先輩達も立ち止まる。

少しだけ顔を見合わせ意を決した様に入り口の扉をくぐるのだった。

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