卒業のあと 12
下を向いて考え込んでいた私は聞き覚えのある声に顔を上げる。
“あ、先輩のバンドだ!”
バンド名は聞き取れなかったが、先輩のバンドの出番の様だ。
スポットライトを浴び、ステージに立つ先輩達を観るとなんだか不思議に思う。
久々に会った時とは別人みたいだ。
ギターの第一声で私はその訳がわかった。
歌詞も知らない先輩達のオリジナル曲。
どことなく私が好きなバンドの“感じ”に似ている。
それは、リズムとか情景とかそういったものかもしれない。
でも、同じではなく確かに先輩達のオリジナルだ。
それを演奏している顔つきがどことなく少年っぽい。
中学校の吹奏楽部にいた頃の先輩に戻った様な錯覚を覚える。
こんな大人な空間なのに。
ギターが二人、ベースが一人、ドラマも一人の4ピースバンド。
一つ一つの演奏が丁寧だ。
まだ、たどたどしい部分はあれど四人がそれぞれを見てリズムを合わせている。
何より音が面白い。
聞いた事ある音、ない音が見え隠れする。
何より情景が頭に浮かんで来る。
楽しいのか、悲しいのか、恥ずかしいのか。
曲に出て来る人物の感情の移り変わりを感じ取れる。
それは時に天真爛漫だったり、突然大人びて見たり、走り出したり、揺れ動く人の姿。
いや、「あの子」の姿。
「あの子」が誰なのかは人それぞれの想像だが、確かにいる。
“浅くて狭いな…私も…”
私だって、それなりに音楽に触れている。
そう思っていたが、まだまだなんだなと感じる。
先輩達だけじゃない。
このライブハウスでライブをしたバンド全部。
上手いとか下手とか、そういうことではない色んな音楽の形がある。
在り来たりだがそう思った。
それ以上例えることが出来ない自分の文書能力の無さが恥ずかしい。
“こんな人達と音楽が出来たら面白いだろうな”
この気持ちは嘘ではない。
まだまだ、色んな音を聞きたいと思う。
だけど、面白いだろうな位の話で実現させたいとか、今やっている事を辞めてまでとは考えていなかった。
きっと一時的な衝動でしかないのだから。




