ありがちを叫びたい 21
「あれ?誰か来てたんですか?」
ダンスの練習を終え地上に戻って来た私。
匂いに惹かれ机まで足を運ぶと、コーヒーのマグカップが2つ置かれた状態。
しかも、片方は飲みかけのまま冷えてしまっている。
「さっきまで居たんだけどな。なんか用事を思い出したみたいで慌てて居なくなったな」
店長は笑いながらコーヒーを飲んでいる。
慌てる様な用事ってどんな用事なんだろう。
想像し思考を巡らせるが、頭が冴え過ぎているのだろうか。
気づいたら正義のヒーローが悪党にとんでもない高さからキックをお見舞いしていた。
「ボーとして嬢ちゃん大丈夫か?」
慌てて頭を振りイメージを吹き飛ばす。
その後、コーヒーをご馳走になっていると話題は戦楽フェスの話に。
「多分選考会が始まったらダンスは暫くお休みになりそうなので、今のうちに踊っておこうかと」
これから選考を勝ち抜く事を考えると、どうしてもバンドでいる時間が増える。
そうなると、ダンスと向き合っている時間は恐らくない。
「嬢ちゃんはそんなとこまで考えてるのか。そんなに大層なイベントなんだな」
店長の反応は薄い。
「そりゃ全国から凄いバンドが集まってきますからね。生半可な気持ちではステージに立てないですもん!」
大層なと言われると反論したくなる。
店長と熱量が違うのだから仕方ない事だが、ムキになるのは私の悪い癖だ。
「悪い悪い。嬢ちゃんの熱量は伝わったよ。ただ張り切るのはいいけど、躓いた時にえらい目にあうんじゃないか?」
痛いところを突く。
店長は大人だ。
そして、そういったアドバイスは今は分からなくても後々理解する事が多い。
だけど、反抗したくなる。
私が天邪鬼なだけだろうか。
とりあえず、コーヒーを一口。
この口を少し大人しくしなければ。
そう思い飲んだコーヒーはいつもより苦く感じる。
多分これは、気のせいじゃない。
何故ならこのコーヒーは私のためにブレンドした訳ではないからだ。
この苦味を楽しめる人物が羨ましい。
きっと大人なのだろう。
勝手に正義のヒーローを思い浮かべた私はもう一度頭を振るのだった。




