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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
ありがちを叫びたい
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ありがちを叫びたい 20

「自信がないか…分からないでもないけどな」

おじさんはそう言いながら俺にコーヒーを渡す。

相変わらずいい香りがする。

砂糖もミルクも入れずに一口啜る。


「熱っ!」

自分が熱いものが苦手だと忘れていた。


「まだまだだな。コーヒーは淹れたてが一番美味いんだ」

必死に冷ます俺を嘲笑う様に何食わぬ顔でコーヒーを啜る姿はとても腹が立つ。


「そんなお子様舌のお前にいいものを見せてやろう」

そういうとおじさんはマグカップを置き、レコーディングスタジオに繋がる秘密の扉を開ける。

でも、鍵は使っていない。

どうやら鍵は元々開いているみたいだ。


「お客さんが来てたからな。一応扉は隠してたんだ」

おじさんと俺はスタジオへと降りていく。

下に降りると音楽と床が擦れる音がする。

誰かがいるのは明らかだ。


少し開いたスタジオの扉から覗き込むとそこにはダンスを踊る柄本の姿が。


“柄本?なんでダンスなんて踊ってるんだ?しかも、この曲って…”

23区トウキョウの新曲。

全部聞いた事はないが、横井がよく口ずさんでいるから自然とサビは知っている。


「嬢ちゃんは平日はほぼ毎日ここでダンスの練習をしてる。閉店時間までな。この前、ダンスの先生に色々教えてもらったらしく凹んでたな」

鏡と向かい合い真剣に踊る柄本。

納得できないのか何度も何度も同じ振り付けをやり直す。

周りが視界に入らない程集中している様だ。


正直なぜダンスをやっているのか分からない。

だけど、一生懸命な姿は人を惹きつける。

柄本はいつもそうだ。

初めてこのバンドに来た時から変わらない。


「嬢ちゃんは不器用な奴だ。器用に出来るセンスはあるのに、それを掴むまで時間がかかる。だけどな、掴むまでやり続ける。きっと今までそうやって積み重ねてきたんだろうな」

おじさんはそういうと階段を上がり店に戻る。

それと同時に、柄本は突然笑みを浮かべ床に倒れこむ。

それを見た時、俺は今から横井と豊田に電話してみようと思った。

明日ではない。

今じゃなきゃいけないのだ。


何回繰り返したら、あんな風に笑えるだろう。

結局悩みは解決しなかったけどなんとなく解決方法は分かった気がした。

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