ありがちを叫びたい 13
「私16区ナゴヤのファンなんです!」
そう言って知美ちゃんはクローゼットを開ける。
彼女のクローゼットは彼女のこだわりが詰まっていた。
16区ナゴヤのポスターやうちわ、ライブTシャツや私達の特集が組まれた雑誌まで様々なグッズが所狭しと並べられている。
その中に生誕祭Tシャツと呼ばれる、メンバーの誕生月にそれぞれの個性を詰め込んだオリジナルTシャツがある。
これを見る限り、彼女の推しているメンバー、いわゆる推しメンは私ではないようだ。
「珠紀が推しメンなんだね」
Tシャツのデザインを見ればわかる。
何故なら珠紀のTシャツのデザインにはいつも双子の星が入っているから。
「珠紀ちゃん推しなんです!だから、萌さんに会えて凄く嬉しいんです!」
本人では無く、私に会うと喜ばれる。
珠紀ファンにはよく言われる言葉だ。
理由は珠紀のブログに頻繁に登場するからだろう。
前にも言ったが、私は珠紀に懐かれている。
私も珠紀を妹の様に可愛がっていた。
だから事ある毎に一緒にいた。
PV撮影の空き時間、テレビ局の楽屋、ライブの遠征に至るまで、かなりの時間を一緒に過ごしてきた。
その為、様々な場面のオフショットもよく2人で写っていたし、珠紀の写真フォルダは私との2ショットが多くブログに使う写真も必然的に増えていた。
結果として、珠紀のお世話役というのがファンの間で広く認知され、珠紀のファンの方々は私の存在を覚えるのが必然になっていたのだ。
「私、握手会に行って見たいんですけど、親からダメって言われてて…」
珠紀のうちわを持ちながら私の顔を見つめる。
相当珠紀の事が好きなのだろう。
元メンバーとしても嬉しくなる。
「だから、本物のアイドルさんに会えて嬉しいんです!」
知美ちゃんは目をキラキラさせながら、私を見ている。
だけど、“本物のアイドル”という言葉が私の心に突き刺さる。
私はもうアイドルではない。
ましてや、すっぴんに濡れた髪、そして中学の地味なジャージ。
彼女の憧れるアイドルとは程遠い。
「そう言ってくれてありがとう!これからも、珠紀のファンで居てあげてね!」
それでも、精一杯の笑顔で彼女に応える。
彼女の夢を守る事が、曲がりなりにもアイドルをやってきた私に出来る唯一の事だから。




