ありがちを叫びたい 11
部屋着のまま家を飛び出す。
スパイスの香りを振り切り、スマホの連絡先にある今岡先輩の項目を開き電話をかける。
雨なんて気にならない。
反対の手には私宛ての封筒を持つ。
それだけは濡れないようにパーカーで包んでいる。
「今岡先輩!突然すいません!今どこにいますか?」
電話に出た今岡先輩に畳み掛ける。
「今?今は家にいるけど?」
明らかに圧倒されているのが電話越しに分かる。
だが、今はそんな事気にしている場合ではない。
「分かりました!今から行くので家にいて下さい!」
それだけ言って私は電話を切る。
先輩の返事なんて待っていられない。
スマホを握り締めながら走り出す。
今岡先輩の家までは割と遠く歩いたら20分はかかる。
でも、傘なんて差していない。
ただ、少しでも早く今岡先輩の家まで辿り着きたいのだ。
雨粒を切る。
やっぱりスニーカーでよかった。
水溜りなんて関係ない。
泥が跳ね、靴が汚れてもまた洗えばいい。
足元なんて見てられない。
真っ直ぐ前だけ見ている。
何も考えていない。
頭の中のモヤモヤもない。
ただ目的の為に走るだけだ。
息も絶え絶えになりながら、今岡先輩の家まで辿り着く。
勢いそのままに家のインターホンを押す。
「どちら様でしょうか?」
インターホンから声がする。
「今岡…先…輩…のこうはいの柄…本萌…です」
息が整わず、なんとか声を振り絞る。
しばらくすると、玄関の扉が開く。
出て来たのは私と同じ位の女の子。
「ストーカーですか?」
自分の耳を疑う。
私はちゃんと後輩と言った筈である。
そもそも、この子は誰なのだろう。
私はこの子と何も言わずしばらく見つめ合っていた。
「こら!俺の後輩来るって言ってたろ!」
沈黙を破ったのは扉の奥から出て来た今岡先輩。
先輩に軽く頭を小突かれたその子は少し怒った顔をしている。
「だって、びしょ濡れで息も荒い人が突然後輩ですって来ても信じる訳ないじゃん!」
そう言って私を指差す。
今岡先輩は私を見るなり言葉を失ってしまった。
また沈黙が雨とともに降りしきるのだった。




