新品の2年生 50
相変わらず彼女らしい。
そう思いながらヘッドホンを置く。
そしてコーヒーのおかわりを頼み、マフィンを食べる。
レモンの風味がする様な気がする。
不思議に思いマフィンの断面を見ると、中にレモンの果実が入っていた。
ここのマスターはこの一手間を忘れない。
相変わらず、そういったスタンスには脱帽だ。
「いい曲みたいですね。嬉しそうな顔してますよ」
マスターはポットを持ちコーヒーを注ぐ。
淹れた時に香るコーヒー。
「嬉しいか、確かにそうかもしれません」
この時に広がるコーヒーの香りは私を落ち着かせてくれる。
やはり、ここで音源を聞く事の多い自分の事をマスターはよく見ている。
「最近は難しい顔ばかりされてましたから、コーヒーが美味しくないのかと少し不安でした」
それがジョークだという事は長年の付き合いで分かる。
最近忙しく考え事をする事が多かった。
だから、ここにいても煮詰まって難しい顔をしていたのだと思う。
だが、いつもの様にここのコーヒーは美味しかった。
むしろ、コーヒーが美味しくない喫茶店にわざわざ足を運ばない。
「いつもここのコーヒーは変わらず美味しいですよ」
それを聞いたマスターはコーヒーを注ぎ終えると満足した様にカウンターに戻っていった。
CDと一緒に入っていた便箋は柄のないシンプルなデザイン。
そこに書かかれたしっかりとした文字を読む。
新しく注がれたコーヒーを飲みながら。
「鳩崎先生お久しぶりです。
私の初めて携わった曲です。
よかったら聴いてください。」
多くを語らず直球勝負。
読む側の読み取る能力に任せるのは、相変わらず彼女らしい。
またヘッドホンをつける。
しばらく彼女達の曲をリピートしながら仕事をすることにしよう。
彼女以外のメンバーの顔は分からない。
だが、長年の経験のお陰か音の出し方でなんとなく人柄が分かる。
だから、なんとなく演奏ている姿は想像出来る。
やっぱり彼女らしい。
コーヒーカップを置き、パソコンに向かう。
キーボードを打つ指が走る。
その助走のまま、仕事の束に埋もれていくのだった。




