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また弦を切ったあの子  作者: 角河 和次
新品の2年生
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新品の2年生 48

黒い水面が揺らぐ。

水面に映るのは中年の男性。

ここは東京。

ビルが立ち並ぶコンクリートジャングル。

24時間光の消えない都会と呼ばれる場所。

そんな中にある喧騒を忘れられるオアシス。

ちょっと詩的過ぎるかもしれない。

でも、ここはそんな気分にさせてくれる場所だ。


「喫茶店 岬豆」

カウンターに椅子が5つ、テーブル席が2つしかない小さなお店。

だが、いつ行ってもその席が埋まっていることはない。


「今日のコーヒーセットのデザートのマフィンです」

贅沢にもテーブル席に1人座る自分の元に、初老のマスターが焼きたてのマフィンを運んでくる。

この店はマスターが1人で切り盛りしており、このマフィンは店長が自分で焼いたものだ。

フォークを入れ、口に運ぶ。


「美味しい」

その言葉を聞いたマスターは満足そうにカウンターに戻っていく。

マスターの作る洋菓子はいつも美味しい。

食べると少し懐かしさを感じる味だ。

コーヒーの苦味を邪魔しない、むしろ引き立ててくれる。


この店に通い始めてすでに15年経つだろうか。

いつも変わらず落ち着いた空間だ。

西洋アンティークの家具が並び、天井では気のファンが回る。

店内ではオシャレなジャズではなくラジオが流れている。

アンティークな空間で、現代のJ-POPや洋楽が流れるチグハグさがまた味がある。


「時刻は午前1時になりました。皆さんこんばんは。オールナイタージャパン、パーソナリティの…」

ラジオから聴こえてくるパーソナリティの声。

ここに通い詰めるのにはこのチグハグな空間が好きだからだ。

元々深夜ラジオが好きでハガキを投稿したりもしていた。

だから、このラジオが聴けるのは嬉しい。

そしてもう一つの理由は、夜遅くまでやっているからということ。

この時間にこんな美味しいコーヒーを出してくれる店は他にはない。


それに、この時間ならばテーブル席を独占していてもマスターに何も言われることはない。

テーブルに資料や本を置いて仕事をする事の出来る空間は非常にありがたい。

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