新品の2年生 47
「にしても、嬢ちゃんがここに来る様になってコーヒーを飲む相手ができてよかったよ」
店長は私のベースを持ちレジ奥にある作業場運び戻って来る。
その手にはオシャレな紙袋。
「あ、それはチョコレートじゃないですか⁉︎」
私はその紙袋を見たことがある。
名古屋にある百貨店に期間限定で出店している有名なパティシエのお店にものだ。
まだ、名古屋の学校に通っている頃、私も何回も買いに行ったが売り切れで買えなかった。
「正解だ。若い子は流行に敏感だな」
店長が紙袋のなかから取り出したのはコーヒーよりも黒く金色の文字でパティシエの名前が刻まれた箱。
無駄な模様などは一切ない、着飾ることのないデザイン。
箱を見るだけで中身への期待が高まる。
箱を開けるとパッケージに負けないほどシンプルなチョコレートが4粒。
「遠慮せずに食べていいぞ」
見惚れていた私の前で、店長はチョコレートを一粒とり口に入れる。
満足そうな顔をする店長の顔を見て私もチョコレートに手を伸ばす。
先ほどまで冷蔵庫に入れていたのかひんやりしている。
だけど、手でつまむと熱を感じたのか少し溶け始めてた。
“繊細”
その言葉が似合う一粒を口に入れる。
口の中に広がる真っ黒な宇宙。
その中で味覚を刺激する星達。
苦味、甘み、酸味、どの言葉も当てはまらない。
シンプルな一粒の中に凝縮されたパティシエの意志を感じる。
明らかに私は背伸びをしている。
このチョコレートを嗜むにはまだ経験が足りない。
思い返せば、この前のバームクーヘンといい、店長が出してくるお菓子は大人なものばかり。
店長のセンスには脱帽だ。
きっと、このコーヒーがなければ私はこの味を理解出来ていないだろう。
きっとこのコーヒーもチョコレートに合わせてブレンドしたものなのだと思う。
黒い液体の中にも世界が広がっている。
その奥深さに気づける大人になれるだろうか?
コーヒーを舌の上で感じながら黒い水面を見つめるのだった。




