卒業のあと 9
"まずい!遅くなっちゃった”
結局レッスン場に寄り自主練をしていたら遅くなってしまった。
いつもの時間の列車に乗る為、急いで駅を目指す。
名古屋は人通りが多い為、人の間を縫って歩がなくてはならない。
だが、こんなに人がいても誰1人記憶に残らない。
誰もすれ違う人を気にする人はいないし、私もそれに慣れてしまっている。
それが当たり前のように。
そんな事に意識を向けることはなく、ヘッドホンから流れる音楽に耳を傾け、通学路にしか過ぎない道を歩いていると気づけば駅に着いていた。
ラストスパート。
定期をかざし改札を抜け、一気に階段を登る。
ローファーが擦れる音と揺れる長い髪。
耳につけたヘッドホンは階段と同じリズムで上下に動く。
ダンパーが鍵盤に合わせ弦を叩く様に身体が跳ねる。
なんとか電車の発車時刻に間に合わせ車両に滑り込む。
車内は比較的空いていたが、座席には座られなかった。
仕方なく電車の扉の近くに立つ。
なんとなく、窓の外を見ているが毎日同じ様な景色だ。
なんでこんな事を考えているんだろう。
それはヘッドホンから流れる音楽のせいかもしれない。
考えても答えはみつからなさそうなので、そういう事にしておく事にした。
窓ガラスに映る自分の顔を見つめる。
まだまだ幼い自分の顔。
周りには会社帰りのサラリーマン、私服の大学生、そして制服を着た高校生…
"あれ?”
見覚えある顔を見つける。
いや、むしろさっき見た様な気がする。
「今岡先輩⁉︎」
夕方にCDショップであったばかりの先輩に声をかける。
先輩も驚いている様だ。
「なんでいるんだよ!」
こっちが聞きたいくらいだ。
だが、よく考えたら帰る街は一緒なのだからありえないことはない。
ただ、1日に2回、しかも同じ時間、同じ車両、偶然にしては出来過ぎている。
「誰だこの子?どういう関係?」
先輩の周りには三人同じ学生服を着た人物がいた。
「ああ、小学校の吹奏楽クラブの後輩だよ。」
先輩は、私を三人に紹介する。
会話こそなかったが、今思えばこの時に豊田、横井の二人の先輩と会っていたんだと気付く。
全く横井先輩は、目を合わせてくれなかったのを鮮明に覚えている。




