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正直憑かれました。  作者: かつを
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高級車

 高級車



 今回はバカな先輩のせいでえらい目にあった話。


 ……これ、先輩見てないよね? まあいいや。


 俺の先輩に、やっちゃんと付き合いの有るちょっと痛い先輩がいてさ、こないだその先輩ん家に遊びに行った時の事なんだけど、その先輩いきなり拳銃出して来て、「おう、これでロシアンルーレットしようぜ」とか言うんだ。


 まぁ偽物なんだろうけど。


 んで、その拳銃よく見たら、オートマチックって言うのかな。くるくる回る所が無いタイプで、弾入れたらすぐ出るタイプね。


 で、俺は先輩に、「先輩、それ偽物ですよね?あと、それ使っちゃうと1番最初の奴が死んじゃうっす」って言ったんだ。


 そしたら、先輩が俺に真剣な顔して、「バーカ本物だし。それに弾が出るかどうかわかんねえのに、何で死ぬんだよ」とか言うんだ。


 まぁ、俺がかなり必死で説明したら分かってくれたんだけどね。


 あれ、冗談だったんですよね先輩?


 まぁいいや、そん位バカな先輩がいてさ。


 ある日その先輩から電話があって「今から30分以内に俺ん家に来たら良いもんやるよ」とか言うのよ。


 先輩の言う「良いもん」で、良かった物なんかあったためしが無いからさ、正直行くの嫌だったんだけど、行かなかったら確実に嫌がらせ受けるの分かってたから、仕方なく行ったのね。


 そしたら、先輩の言う「良いもん」て車だったんだ。


 しかも車種は、何とレクサス! ただ先輩が言うには条件が有るらしくて、俺は、はいはい来た来た来ましたよって感じで、その条件てのを聞いたんだ。


 先輩が言うには、明日ある場所で、夜9時頃に女が来るから車に乗って待ってろって言うんだ。で、もし女が来ても来なくても車はやる。だってさ。


 俺は先輩に「それってやばいバイトかなんかっすか?」って聞いたんだけど、先輩はニヤニヤして、「まぁそんな所だ」とか言うんだ。


 俺は二択を迫られた。


 先輩の言う事を聞いてレクサスを手に入れるか、先輩に逆らってちょっとした嫌がらせを受けて、しかもレクサスも手に入らない上にバイトはさせられる。


 考える迄も無い。俺は、前者を選んだ。




 某日某所PM09:00。


 俺はレクサスに乗り、先輩の言う女を待つ。


 本当にこんな所に女なんか来んのか?


 ここは街から外れてはいないけど交通の便だって悪い。街灯だって殆ど無いに等しい。それに、正直不気味だ。


 俺はそれでも、レクサスの為にひたすら待つ。


 突然振動し、着信音を鳴らす携帯。先輩からだ。「どうだ? 女来たか?」だってさ。



 俺は、「来て無いしもし来ないんなら帰りたいって言った」


 そしたら先輩不機嫌になって、「そんな筈は無いから後1時間待て。」だってさ。


 俺は、断れる筈も無いからそのまま待つ事にした。


 そっから五分位経った時かな、バックミラーに女が近づいて来るのが見えたんだ。


 やっと来たよ。俺はお待ちかねのレディが来た事でちょっとだけ安心した。


 だって、そこ本当に不気味なんだよ。


 控え目なノックの後、これまた控え目な声で彼女は言ったんだ。


「あの、ちょっと乗せてもらえますか?」


 俺は待ってましたとばかりにドアを開け、早く乗りなよって言って彼女を促した。


 彼女は助手席に乗り込んで来ると、軽く俺にお辞儀をした。


 おっ、結構可愛い。ちょっと透明感のある幸薄そうな子。色だって本当透けるように白い。服もオシャレだし、正直好み。


 俺のレクサスちゃんでの初デートにしては中々幸先が良い。


 俺は、そこで気が付いた。


 あれ? これからどうしたら良いんだ? 車に乗っけるって事はどっかに運ぶって事か? 俺が逡巡してるのを感じたのか、彼女は俺に目的地を告げた。


 これまた辺鄙な所を指定して来たもんだ。と、目的地に着いた俺は思った。


 だってさ、そこは昔工場だったんだけど、10年位前にその会社潰れて、廃墟同然空き家状態になってる所だったんだぜ。怪しいよな?


 で彼女は、そこの前で停めてくれって言った。


 おいおいこんな所で何すんだ? 怪しい小麦粉の取引? それとも何かふにふにな事?


 考えてる間にいつの間にか彼女は消えてて、気が付くと工場の入り口に立ってた。


 あれ? いつの間に……さすが高級車ともなるとドアの開け閉めも静かなんだな。


 俺は慌てて彼女の横に行くと、どうしたの?って聞いたんだ。


 そしたら彼女、付いて来てって言ったと思ったら、勝手に工場内に歩いて行っちゃった。


 俺は正直、いいのか? 警察につかまん無い? とか思いながらも付いて行ったんだ。


 しっかし中は真っ暗で何にも見えない。


 それに、まさかこんな事になるなんて思ってないから照明器具だって持ってない。


 俺は携帯電話を取り出し、液晶の弱々しい明かりで足元を照らしながら彼女を追った。


 おーい。彼女はどこ行った?俺は慎重に歩く。


 その時俺は彼女の足らしきものを見つけた。携帯の明かりじゃ膝裏位迄が限界。そっから上は何にも見えない。


 よくこんな暗い所明かりも無く歩けるね? って彼女に聞いたらいつも見てるから。とか言ってどんどん進んで行く。


 いつも見てるってどう言う事よ?正直怖いんですけど。


 俺は携帯の明かりと彼女の足を頼りに歩いて行く。


 思えば、何でこの時おかしいなとか思わなかったのか分からない。ただ俺は、盲目的に進むしか無かった。


 それに俺はもう、自分でどこをどう歩いているかわかん無かったしね。彼女に付いて行くしか無い訳だ。


 その時俺の視界からいきなり彼女の足が消えた。


 ん? 俺は携帯の明かりを少しだけ足元から前に照らす。足は…有った。


 彼女の足は5メートル位前でこっちを向いて立ってた。いつの間に?


「何だよ、急に走んないでよー。」俺は、そう言いながら次の一歩を踏み出した。


 その瞬間俺の足は、完全に空を切ってバランスを崩した。


 そして俺は、階段の様な所を転がり落ちて行ったんだ。


 痛ってー。何なんだよ。俺は完全な闇の中にいきなり放り込まれた。


 痛みに蹲って声も失ってたとき、10メートル位先で俺の携帯が光を放ち、居場所を伝えた。


 俺は呻きながらなんとかそこまで這って行った。


 体のあちこちが痛い。


 骨も折れてるみたいだ……ようやく携帯電話の所までたどり着くと画面は非通知。俺は迷ったが電話に出る。


「はい、もしもし……誰?」


 暫しの沈黙の後、「ありがとう」そう言うと電話は切れた。女の声だった。


 んん? 何だ何だ? 誰なんだ?


 頭ん中がハテナだらけになって呆然としてたら、再び携帯から着信音が鳴った。ん? 先輩?


 俺が電話に出ると先輩はいきなり怒鳴り始めた。


「今どこにいるんだよ! 何回電話しても出ねぇし、てめえレクサスは没収だ!」


 そりゃないっすよ先輩……俺は半泣きになりながら、今いる場所と状況を説明すると、先輩は急に上機嫌になり、「よっしゃよっしゃ! 分かった分かった」と言って電話を切った。どうやら迎えに来てくれるみたいだ。


 訳がわかんねえ……


 どれ位待ったか、全身の痛みで朦朧とする意識の中で俺は、誰かに声を掛けられた気がした。


 ごめんね……


 あの子かな? 出来たら救急車呼んで欲しい。俺は、そう思いながら気を失った。




「おーい! 何処にいんだ? 聡!」


 先輩? 声を聞きつけ俺は目を覚ました。


 俺は、ありったけの声を出したんだ。


 そしたら、急に明かりが近づいて来て、俺は目を眩ませた。


「おお! 本当に有りやがった!」


 有りやがった? 先輩は何言ってるんだ?


 俺は先輩の照らす方を見る。そこには見覚えの有る服と、骨。えっ? 骨?


「うおぉー! サチ! こんな所に!」


 突如先輩の後ろから男が叫びながら骨に駆け寄り泣き始める。


 先輩これどう言う事? 俺は、先輩に訊いた。


 先輩が言うには、世話になってるやっちゃんの妹が行方不明になっていたらしく、どうやらある変態男に車で連れ去られたらしい。(ちなみに妹は堅気さん)


 んで、目撃情報を元に連れ去られた場所や車、連れ去った男の特徴などなどを元に、八方手を尽くしてそいつを捕まえた所、そいつは妹を殺してどっかに捨てたと言う。


 それ聞いたやっちゃん兄ちゃんぶちギレちゃって、そいつボッコボコにしちゃった。


 そいつが乗ってたのがあのレクサスって訳。


 まぁ、早い話がそいつの事やっちゃったんだって。


 ところがやっちゃん兄ちゃん、妹の捨てた場所聞く前にそいつボコボコにしちゃったから、妹の事探したいけど全然わかんなくって、男から没収したレクサスを景品に妹の捜索を下っ端に命じた。


 とまぁそんな感じらしい。


 まぁ、警察に言う訳にもいかないしね。て言うか、そのレクサスあんたの車じゃねーだろ? とは言えない俺。



 そんな時、妹の連れ去られた場所に幽霊が出るって噂が出始めた。


 んで先輩は、本当に幽霊が出るのか、もしその幽霊が妹さんなら遺体の場所見つけられないかって考えたらしい。どんな思考回路だよ。


 先輩は、前に俺が変な女に好かれるって話した時の事覚えてたみたいで、死んで迄出て来るって事は変な女だろって事で、俺に白羽の矢を立てたらしい。


 正直迷惑な話だよな。




 あれから俺は憧れだったカーライフを満喫している。ただ、車はレクサスじゃ無い。


 結局先輩の乗ってた型落ちのマーチになった。


 走行距離は15万キロ。走るとガタガタうるさい。先輩、何でマーチなの?


 先輩はと言うと……


「おい聡。俺のレクサス乗ってくか?」


 人生、強い奴が全てなのか…そりゃないぜ。先輩。


 俺は、悲しい現実に打ちのめされる。



 まぁ……いいや取り敢えず車は手に入ったし。良しとしよう。



 それにあのレクサス、まだまだ余罪がありそうだ。これは先輩には、内緒にしとこう。


 俺は、少しだけ勝ち誇った気になりながら、ガタガタうるさいマーチを走らせた。

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