↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/191

第87話「居酒屋問答、王宮問答」

 ここは、王都中央広場付近の居酒屋《ビストロ》勇者亭……


 ダン達が王都を旅立って、僅か1か月しか経っていないが……

 いきなり、新妻となったリアーヌがわけあって『里帰り』した。

 

 我が子同然なリアーヌの里帰りに、当然、店主のアルバンは喜んだ。

 『姉』のエリンも加わって、店を手伝うと申し入れたのを快諾してくれたのである。


 今の時間はお昼前だが、既にランチ目的の客で、勇者亭はほぼ満席だ。

 

 メイド姿のエリンとリアーヌは、忙しく立ち働いていた。

 オーダーされた料理が上がって、それを一気に客達へ運んだエリンとリアーヌは、

 厨房脇で『ひと息』ついている。


 きびきびと仕事をしながら、エリンは苛立ちを隠せない。

 さすがに客の前では、爽やかな笑顔を見せていたが、今は眉間に深く皺が寄っていた。


「う~、心配」


 エリンがため息をついたのを、リアーヌが心配そうに見つめる。


「何がですか? エリン姉《ねぇ》」


「ダンが……心配なの」


 ダンが心配?

 エリンは、一体何を心配するのか?

 リアーヌは、思わず聞いてしまう。


「ダンさんが? どうして?」


「うん、ダンは女子に……もてるから」


 エリンは、さらに大きくため息をついた。

 今回、王宮へ伺候するにあたり……

 王宮魔法使いのヴィリヤから、「ダン以外が来ることは、まかりならぬ」と、強いお達しがあったのである。


 エリンは「何故?」と憤ったが、さすがにダンが説得した。

 しかし、エリンは心配で仕方ないのである。

 リアーヌも話は聞いているが、さすがにエリンほど心配はしていない。


「確かにダンさんは女の子に好かれますけど……でもベアトリス王女様はさすがに……」


「違う! エリンが心配しているのはヴィリヤ」


「ああ、あの王宮魔法使いの?」


 リアーヌは、ダンをこの世界に召喚したという、エルフの魔法使いを思い浮かべた。

 元々エルフは誇り高く、人間に対しては一線を引いている。


 エリンが言うには……

 ヴィリヤは、ダンの事を結構『気にしている』らしい。

 

 だが、王都でエルフの高飛車な振る舞いを見ているリアーヌには、到底本気とは思えなかった。

 

 エルフが人間を好きになるなど、きまぐれか、興味本位としか。

 目の前の、『姉』エリンは本当に例外なのだと……

 

 しかし、エリンは断言するのだ。


「そう! ヴィリヤはダンが好き、大好きなのよ」


「で、でも……その人はエルフの貴族で、正式な婚約者も居るんでしょう?」


 リアーヌが反論するが、エリンはきっぱりと言い放つ。


「関係ない! それに禁断の恋は燃え上がるもの」


「禁断の恋……そうか……そうですよね」


 リアーヌが、今迄恋した相手はダンのみである。

 

 エリンの言う、『禁断の恋』という意味は何となく分かる。

 恋に障害があれば、燃え上がると情景は一応知ってはいる。

 だがそれは、今迄読んだ小説の中の架空の世界であり、リアーヌの想像に過ぎない。


 確かに、ダンは女子に優しい。

 それを、エリンとリアーヌは充分かっていた。

 

 しかしダンは恋愛において、自分から愛を告げるタイプではない。

 

 今の『夫婦関係』があるのも……

 エリンとリアーヌから、愛している事を積極的にアピールした、という思いがあるから。

 そして、ダンに受け入れて貰ったという、喜びがあるから。


 だから……

 ヴィリヤからの『押し』に屈し、ダンが彼女を受け入れてしまったら……


 そう、リアーヌが尋ねると、エリンは「ぶんぶん」と首を横に振る。


「でも、そうなるのは嫌だ。エリンはヴィリヤなんて凄く嫌だ。もしエリンの事を知ったら、絶対に家族として上手く暮らして行けるわけがないもん!」


「な、成る程……」


 リアーヌは、同意して頷いた。

 

 実際に会った事はないが、王宮魔法使いのヴィリヤは、エリンとかみ合わない部分が多過ぎる。

 

 ダンを巡っての、恋敵というだけではない。

 確かにヴィリヤがエリンの正体を知ったら、顔を合わせる事さえも嫌がるだろう。

 エリンはエルフ族の宿敵、伝説のダークエルフなのだから。


「ダンさん……」


 リアーヌは不安そうに、「ぽつり」と呟いたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 一方……

 ここは、アイディール王国王宮。


 ダンと王宮魔法使いヴィリヤ・アスピヴァーラは、王女控えの間で待機していた。


「おい、ヴィリヤ」


「…………」


 屋敷で待ち合わせ、馬車で王宮まで来たが、その間ヴィリヤはひと言も口をきかない。

 馬車に同乗した、護衛役のゲルダも呆れていたほどである。

 

 今回の謁見は、王女の私室で行われる。

 王宮の超VIPルームである王女の私室には、当事者以外さすがのゲルダも入れず、少し離れた部屋で待機していた。

 なので今、部屋にはダンとヴィリヤのふたりきりだ。


 ずっと黙り込んでいるヴィリヤへ、ダンは話し掛ける。


「おいおい、少しは喋れよ」


「…………」


 相変わらず、ヴィリヤは口をきかない。

 ダンは苦笑すると、ぽつりと呟いた。


「お前、あまり無視すると……心を読むぞ」


「!!!」


 『勇者』ダンの発した、衝撃のひと言。

 ヴィリヤは驚いて、大きく目を見開き、ダンを見つめた。

 そんなヴィリヤを見返し、ダンは大袈裟に肩を竦める。

 

「だから、いいかげん喋れよ」


 「ずかずか」と入り込むような遠慮のないダンの言葉に、とうとうヴィリヤは口を開く。


「何という不埒《ふらち》な! ひ、人の心を覗(のぞ)くなど!」


「お前の事は、ゲルダから聞いたよ」 


 ゲルダから聞いた……

 ダンは……自分の『想い』を知っている。

 ヴィリヤは、返す言葉が見つからず、またも黙り込んでしまう。


「…………」


 黙り込み俯き加減のヴィリヤへ、ダンは言う。


「お前はイエーラへ、自分の故郷《ふるさと》へ帰って幸せになるべきだよ」


 何故そのような事が言えるのか? 

 という思いが、ヴィリヤの中で大きくなって行く。

 

 つい感情が高ぶり、ヴィリヤは顔をあげると低い声で言い返す。


「貴方に…………何が分かると言うのです?」


「何がだい?」


「私の心が……このひどい辛《つら》さが……」


 ヴィリヤの心……辛さ……

 ゲルダから聞いたのなら、ダンも分かっている筈なのに……

 しかし、ダンの言葉は無情である。


「そりゃ、分からんよ。当たり前だろ?」


「…………」


「俺には分からない。誰にも分からない。お前の辛さなんて他人にはどうする事も出来ない」


 ダンは、まるで歌うように言った。

 本当は、ヴィリヤにも分かっている。

 自分がダンに対して、甘えているという事を。


「…………私を、受け止めてはくれないのですか?」


「受け止める? お前は俺の胸に飛び込む為には、一杯注文をつけるだろう?」


「注文? 一杯?」


 ダンの言葉を聞いて、ヴィリヤは首を傾げた。

 もどかしそうにダンは尋ねる。


「例えば……俺に、すぐエリンと別れろとか、言うだろう?」


「…………当然、言います」


 ダンの問いに対してヴィリヤは言い切った。

 当たり前だ。

 自分を選ぶのだ。

 この誇り高きエルフの姫、ヴィリヤ・アスピヴァーラを。

 他の女など、一切不要ではないか。


 しかし、ダンは首を振った。

 とても、不機嫌そうな表情になっている。


「一体、何考えてるんだ?」


「…………」


「俺には俺の事情と都合がある。俺自身の気持ちもある。お前は自分を中心にしか考えていない。お前の国の祖父や親への説得も、自分でやろうとはしていない」


 ダンが告げたのは、自分の気持ちそのものだ。

 ヴィリヤは「ドキッ」とした。

 やはりダンは、自分の心を読んでいるのかと。


「わ、私の! 心を読んでいるのですか?」


「読んでね~よ。お前の不器用な性格は分かっている」


「貴方は私が不器用なのを分かっている! そう……私は確かに不器用です! だからこそ! わ、私には! あ、貴方が必要なのですっ!」


 ヴィリヤはもう、完全に駄々っ子となっていた。

 王宮という場所もわきまえず、大きな声で叫んでいたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。