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第83話「本当の真実①」

 リアーヌは、頭が真っ白になっている。


 エリンがダークエルフ!?

 そんな馬鹿な!

 

 疑問の言葉が頭の中を飛び交い、駆け巡る。

 呆然としているリアーヌへ、ダンは言う。


「リアーヌ、お前は創世神教会が運営する孤児院で育った。だから司祭達から教えを受けたはずだ、創世神の教えをな」


「創世神様の……教え……」


「ああ、ダークエルフとは『こういうものだ』という教えさ」


「ダークエルフとは……」


 リアーヌは遠い目をして、(ふる)き記憶を呼び覚まそうとした。

 

 ダンの言う通り、リアーヌは創世神孤児院で育った。

 その話は大好きなダンへ自分の生い立ちを知って貰い、仲良くなりたくて自ら話した事だ。


 創世神教会が運営する孤児院という環境的ゆえ、リアーヌは物心ついた時から朝の礼拝は欠かさなかった。

 運動が大好きな兄と違い、リアーヌは勉強が大好きであった。

 

 創世神を称え信じ、教えが記載された書物をずっと読む毎日も嫌ではなかったのだ。

 やがてリアーヌは信じられない速さで読み書きを覚え、10歳の頃には結構難しい本も読めるようになっていた。

 

 ある書物の中に、気になる記述があった。

 忌まわしい不浄の存在、呪われた一族が居るという内容である。


 一族の名は、ダークエルフ。

 (いにしえ)にエルフと共に栄えたが、創世神の怒りを買って深き深き地下へ追いやられたという。

 その後、どうなったのかは誰も知らない。

 

 何故かリアーヌは、そのダークエルフが気になった。

 書物にはただ、「追放された」としか記してなかったからだ。

 

 子供心に、ずっと疑問に思っていた。

 ダークエルフが、創世神の怒りを買った理由を知りたかった。

 地上から追放されるのは、どのように重い罪なのかと。


 そこで、ある日リアーヌは一番可愛がって貰っていた老齢の男性司祭へ問いかける。

 

 その司祭は博識で、いつも優しい穏やかな人柄。

 好奇心旺盛なリアーヌに、何でも教えてくれる祖父という雰囲気があった。

 それゆえ、リアーヌはとても司祭に懐いていた。


「司祭様」


「何だい、リアーヌ」


 司祭は、いつもの他愛ない質問だと思ったのだろう。

 慈愛溢れる微笑みを、リアーヌへと向けた。


「ひとつお聞きしたいことがあります」


 子供であるニーナの質問にも、司祭は真剣に聞く様子を見せる。


「うむ、言ってみなさい。何でも聞いてみなさい」


「はい! ダークエルフの事です」


「ダ、ダークエルフ?」


 ダークエルフと聞いた瞬間。

 司祭の顔色が変わった。

 

 リアーヌは、今でもはっきり覚えている。

 深い皺の刻まれた顔に、さしていた司祭の血の気がす~っと引いた事を。


 しかし当時のリアーヌは、あまり気にせず、続いて質問したのである。


「はい、司祭様! ダークエルフはなにゆえ創世神様に怒られたのでしょう?」


「…………」


 司祭は答えなかった。

 完全に無言となってしまった。


 だがリアーヌは、めげずにまた質問した。


「ダークエルフはどうして創世神様に追放されたのでしょう?」


「…………」


 司祭は、返事をしない。

 その代わり凄い目付きで、リアーヌを睨みつけていた。


 さすがにリアーヌも、司祭の様子がおかしいことに気付く。

 それで、思わず聞いたのである。


「し、司祭様、何故? 怒って……いらっしゃるのですか?」


 その質問が、司祭の感情を押し留めていた堰を切った。


「忘れなさいっ!」


「は、はい!?」


「貴女は子供だから許しますが、そんな奴らの名など口にするのも汚らわしい! リアーヌ、良いですか? 今度その名を言ったら食事を1日抜きにします!」


「はっ、はい!」


 リアーヌが吃驚するくらい、司祭の怒りは凄まじかった。

 

 それまで怒った事などなかったから、普段とのギャップが凄まじく、リアーヌは震えてしまった。

 食事を抜かれるどころか、もっと酷いお仕置きをすると言わんばかりの勢いであった。

 

 司祭の剣幕に怯えたリアーヌは、ダークエルフの事を聞くどころか、二度と名を口にしなかったのである。


 そんなショックの強すぎる記憶が甦った。

 

 怒り狂った司祭から、口にするのも汚らわしいと蔑まれたダークエルフが……目の前に居る。

 それも実の姉に等しいくらいに、リアーヌが慕っている存在なのだ。


 恐る恐るリアーヌが見ると、エリンは俯いて表情が見えない。

 わずかに見える口は、堅く噛み締められている。

 極度の緊張状態にあるらしい。

 身体も、わなわなと震えていた。


「エリン……姉」


 リアーヌが、そっと呼びかけても反応はなかった。


 ダンは黙ってエリンに寄り添い、肩を優しく抱いた。

 抱かれたエリンは、更にがっくりと俯いてしまった。


 ひと言、言葉をかけたダンはエリンの肩を抱いたままニーナの方へ顔を向けた。

 どうやら、エリンの素性に関して詳しい説明をしてくれるらしい。

 

 リアーヌがおそるおそる見ると、ダンは落ち着いていた。

 もしかしたら、自分以外にもエリンの事を話したのだろうか?

 リアーヌは、ぼんやりと考えた


 息をひとつ吐いたダンは、ゆっくりと話し出した。


「リアーヌ、俺とエリンは深い深い地下世界で出会った」


 地下世界……

 書物で読んだ通りである。

 間違いなく、ダークエルフ達が追放された場所だ。


「ダンさん……」


「俺は王家の依頼で、ある敵を倒す仕事の途中だった。エリン達ダークエルフは静かにつつましく暮らしていたそうだ。その平穏を破ったのが悪魔の王、その王を倒すのが請け負った仕事だった」


「あ、悪魔の王を倒す!? ダンさんが王家から頼まれたのですか!?」


 王家から悪魔の王を、つまり魔王を倒せと命じられる。

 まさに勇者である。

 リアーヌは、ダンの顔を「まじまじ」と見てしまった。


 口を「ぽかん」と開けて見つめるリアーヌを見て、ダンは苦笑する。


「ああ、俺の話はややこしいからまた別にな。とりあえずエリンの話に戻すと、悪魔の王とその邪悪な軍団は、平和に暮らしていたダークエルフ達を皆殺しにした。何も悪い事をしていないのに……」


「悪魔の王、悪魔王がダークエルフを…………皆殺し……」


 その時、リアーヌの心の中には、恐ろしい悪魔に殺される阿鼻叫喚の声が、

 ダークエルフの断末魔の声が聞こえたような気がした。


 そんな幻聴を聞きたくないとばかりに、リアーヌは思わず自分の耳をふさいでしまったのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます。

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