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第69話「リアーヌをナンパ?④」

 当時は恐ろしい状況で、一歩間違えばどうなっていたか分からない。

 しかし、ダンはリアーヌを救った。

 助けて貰ったから、リアーヌは無事であり、エリンの前で楽しそうに笑っているのだ。

 

 今だから、笑って話せるという『思い出』のせいなのか、エリンもだんだん楽しくなって来る。


「うふふ、でもその悪い冒険者どもって、ダンに邪魔されて怒ったでしょ?」


「それはもう! クランのリーダーはダンさんや私よりずうっと年上の、結構良い歳したおじさんなんですけど、『ふざけるな、くそガキ』って怒鳴って、ダンさんへ殴りかかりました」


「そうしたら?」


「うるさいな、お前もクソ親爺だろって……たったこぶし一発で」


「そうかぁ……だよね、だよねぇ~。悪い奴は、ダンの拳一発でノックアウト!」


 エリンが、思わず相槌を打ったので……

 リアーヌも、エリンがダンに助けて貰った時の状況を、知りたいと思ったようだ。


「エリンさんの時も、そんな感じだったのですか?」


「そうそう! 本当に嬉しかった! ダン、すっごく強かったよ! エリン、もう少しで相手の魔物にめちゃくちゃに乱暴されると思ったから……」


 ダークエルフを皆殺しにして、勝ち誇ったアスモデウス。

 その恐ろしい姿を、エリンはまだはっきりと覚えていた。

 自分の魔法は、全く通じなかった。

 それでも抵抗するエリンへ、おぞましくも『花嫁』になれと、告げて来たのだ。


 アスモデウスは、拒否するエリンを無理やり乱暴しようと迫った。

 あのままだったら、エリンは意思を曲げ、仕方なく自死するしかなかった。

 もしくは、アスモデウスの卑劣な魔法で自由を奪われ、凌辱されていただろう。

 

 そんな強敵をあっさり倒したダンを思い出すと、エリンは感動で身体が震えた。

 絶体絶命の窮地を助けてくれたダン。

 ダンと出会い、愛し合い結ばれたのはやっぱり運命であり、自分はとても幸せだと思ったのである。


 片や、エリンの言葉を聞いたリアーヌは眉をひそめた。

 異形の恐ろしい魔物が、エリンを力ずくで(けが)そうとするシーンを想像したらしい。


「エリンさん」


「ん?」


「魔物ってもしや……オークか、何かですか? オークなんて最低最悪な女の敵ですものね」


 地下世界で、アスモデウスの先兵として猛威を振るっていたオークは……

 種として雄しか生まれないせいか、恐ろしいことに他種の雌を攫い繁殖を行う本能を持つ。

 よってこの世界では、『女性の敵』と呼ばれる嫌われ者なのだ。


 しかしダンが倒したのはオーク如き小物ではない。

 『魔』と呼ばれる桁違いの力を持つ『上級悪魔』なのである。


 だが……

 さすがに「ダンが倒したのは大悪魔です」と、リアーヌには言えない。

 そんな事をもし言えば、リアーヌは驚き誇らしげになり、いろいろな人に自慢するだろう。

 そうなれば、この国が大騒ぎになるのは、間違いないからである。


 リアーヌには悪いが、エリンは話を誤魔化すしかない。


「う、うん、そんなところ……かな」


「そうですか、オークを倒すなんてダンさんはやっぱり強いのですね! 私も助けて貰って本当に良かった、奴らに連れていかれたら間違いなく……ああ、ぞっとします」


 リアーヌは首を振り、青ざめていた。

 男達にさらわれたら、確実に乱暴されていただろうから。


「だけど残りの悪党共は?」


 エリンが聞くと、リアーヌはまた笑顔になる。


「はい、リーダーを簡単に片づけましたから当然ですが、ダンさんが軽~くひねってしまいました」


 エリンの脳裏にはアスモデウスに引き続き、冒険者ギルドマスターのベルナールと戦うダンの姿が浮かぶ。

 自分が苦労して戦ったベルナールを相手にして、充分余裕を見せるくらい、圧倒的な強さだった。

 あんなに強いのに、何故勇者だと自覚しないのか不思議だと、エリンは思う。


 しかしここは、素直にダンを賛辞しておこう。


「うわぁ、ダン、強い! さすが飢えた狼!」


 エリンが褒め称えると、リアーヌは同意。

 「うっとり」している様子だ。


「飢えた狼……うふ、私達にとっては、本当に素敵な狼さんですね」


「うん、かっこいい狼! ダンは最高」


「はい、ダンさんは最高です。……奴らは衛兵が引き立てて行って、今迄の罪もあってむち打ちの上、結局は国外追放になったとか……私が今、安心して王都で暮らせるのは、ダンさんのお陰なんです」


 悪党はとうとう捕まり、裁かれたらしい。

 そんな奴らなのに、何故極刑にならないか、エリンは不思議に感じた。

 しかしひとまずリアーヌは、平穏に暮らせるようにはなったのだ。


 リアーヌの話を聞き終わったエリンは、花が咲いたように笑う。

 爽やかな笑顔である。


「よかった!」


 エリンが喜ぶと、リアーヌも釣られて満面の笑みを浮かべる。


「ええ、本当によかったです! それ以来、ダンさんはたま~にですけど、この店に顔を出して元気? とか言ってくれて。……私は、凄く嬉しかった。だから、おにいが死んでも生きる張り合いが出来たんです」


 ダンは助けた後も、唯一の肉親であった兄を亡くしたリアーヌを優しく励ましていたようだ。

 これでは、「リアーヌがダンを好きになるのも当たり前だ」と、エリンは思う。

 

 やっぱり、ダンは優しい。

 少しけるけど……嬉しいとも思う。


 しかし、リアーヌの表情はだんだん暗くなって行く。

 

 自分の目の前には、厳しい現実がある。

 恋焦がれた相手は、美しい少女エリンと結婚してしまったからだ。


「だけど……それきりだったんです。ダンさん……確かに勇者亭へ来るけど全然誘ってくれなくて……私、ダンさんとふたりきりで会ってちゃんとお礼を言いたかったのに……」


 「好きだ」と伝えたかったのに、ダンがいきなりエリンと現れて、リアーヌはがっかりしただろう。

 自らが愚図愚図していたのを、悔やんでいるのかもしれない。 

 大好きなダンは、もう他人のモノ……エリンの夫なのである。


 あの『恋人発言』は、想いが通じなかった悔しさの裏返し……

 片思いのリアーヌから、遅すぎたともいえる、ダンへの意思表示だったのだ。

 

 リアーヌは深いため息をつき、考え込んだようだった。

 しかし、すぐにエリンへ笑顔を見せた。


「ああ、御免なさい! エリンさん、改めてご結婚おめでとうございます、お幸せに!」


 リアーヌの言葉を聞いて、エリンには良く分かった。

 

 ダンの事が本当に好きだから、彼が幸せになったのを素直に喜んだのだ。

 エリンを伴侶と認めてくれて、祝福してくれたのである。


「リアーヌ……」


 だが……

 お祝いされても、エリンは辛かった。

 

 リアーヌの気持ちが、良く分かるから……

 何とも、複雑な気持ちになっていた。

 

 勇者亭の給仕の仕事をした時から感じていたし、話してみて改めて分かったが、エリンはリアーヌの事が好きだ。

 

 リアーヌは素直で明るい。

 優しい子だし、とても気に入った。

 絶対、親しい友達になれるだろう。


 だからといって、愛するダンは渡したくない。

 と、なると……


 考え抜いたエリンはある決意をして、リアーヌを真っすぐに見つめたのである。

ここまでお読み頂きありがとうございます。

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