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第41話「冒険者ギルド③」

「おい、エリン!」


 つかつかとチャーリーへ詰め寄って行くエリンを、呼び止めようとダンが声をあげた。

 ……いや~な予感がする。


 だが、憤怒の表情を浮かべるエリンの耳には、ダンの制止が全く入っていないようである。


 一方のチャーリーは、わけが分からない。

 ダンと一緒に居た可愛い少女が、いきなり怒ってこちらへ向かって来るのだから。

 「状況を理解しろ」と言っても無理だろう。


「え、な、何だ? この子?」


 エリンは、ぼん! きゅっ! ぼん!

 ぶるんと揺れる巨乳、きゅっと締まったウエストに、小さなお尻。

 抜群のスタイルである。

 

 やや褐色の、健康的なつや肌が眩しい。

 そして鼻筋が通った美しい顔立ちに、桜色の唇。

 色を変えたとはいえ、さらさらの長い栗色の髪が舞い、神秘的なダークブラウンの瞳は怒りに燃えている。


 厄介な事に、可愛い女子は怒った表情も素晴らしく魅力的なのだ。


 この子! すげ~! か、可愛いなぁ……


 「すげ~可愛い」どころか、「凄く危ない」雰囲気なのに……

 チャーリーはつい、エリンに見惚れてしまう。


 しかしチャーリーの見ていた夢は、即座に破られた。


 ぱぁぁん!


 乾いた音が、冒険者ギルドのフロア中に鳴り響いた。

 やはりというか、エリンはチャーリーの頬を思いっきり引っ叩いたのである。

 

 チャーリーはまだ、20才を少し超えたくらいで若いが、筋骨隆々で屈強な戦士である。

 さすがに吹っ飛びはしなかったが、エリンの『びんた』は相当な破壊力だ。

 結構な、痛みを感じよろけてしまう。


「ぐわうっ!」


「わ! エリン!」


 悲鳴をあげるチャーリー。

 慌てて叫ぶダン。

 しかしそれ以上に大きく、エリンの怒声がさく裂した。


「貴方がダンを……そそのかしたのねっ!!!」


「あふぅ……そぉそぉのかしたぁ?」


 頬を叩かれたチャーリーは、混乱と痛さで上手く喋れない。

 そんなチャーリーへ、エリンはきっぱりと言い放つ。


「そうよ! 女なら誰でも良い、見境ないナンパをさせるなんて、貴方が真面目なダンを悪の道へ誘ったんでしょ!」


 身に覚えのない事を言われて、呆然とするチャーリー。

 そこへ飛び込んで、エリンを羽交い絞めにしたのはダンであった。


 エリンは、ダンに自由を奪われてジタバタする。


「あう! ダ~ンったら、放してよぉ! こいつを徹底的に懲らしめるんだからぁ!」


「エリン、駄目だって」


 手っ取り早く場を収める為に、ダンはさりげなくエリンへ『鎮静』の魔法を掛けた。

 興奮状態であったエリンは、徐々にクールダウンして行った。


「わ、分かったよ……ダン。エリン……大人しくする」


 魔法が効き、漸く落ち着いたエリンを見て、ダンは再び大きなため息をついたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「わっはははは!」

「ばっかでぇ~」

「間抜け~」


 クランの仲間から散々笑いものになっているのは、当然チャーリーである。

 怒ったエリンが詰め寄った時に、気付いて防ぐか逃げるかすればよかったのだ。 可愛いエリンに見惚れ、つい「ぼうっ」としてしまって、思い切り叩かれてしまったから。


「チャーリー、申し訳ない!」


 一方、ひたすら謝っているのがダンであった。

 完全なエリンの勘違い、そしてダンが素直に謝罪しているので、チャーリーも怒りは生じなかった。


 頃合いを見たダンが、改めて説明する。


 以前、ダンがチャーリー達クラン『フレイム』とこの王都でナンパをしたのは事実であった。

 但し、ナンパをしたのは一回こっきりである。

 時期もだいぶ前で、酒も随分入っていた。

 なので誰が言いだしたか記憶も曖昧なのだ。


 そもそも依頼が無事に完遂出来た際に行った宴席で、祝い酒に酔った勢いでやった話である。

 ナンパといっても、街の女の子へ声を掛けて誘う事が出来たら勝ちという他愛もないゲームであった。

 ダンから話を聞いたエリンは、自分が早とちりしてしまったと分かったのである。


「う~……じゃあ、ダンが無理やりナンパをさせられたって、エリンの勝手な思い込みだったんだ……ご、ごめんなさい」


 エリンも済まなそうに謝ったので、チャーリーは思わず笑みを浮かべる。

 超美少女に謝られて、許さない男は滅多に居ない。


「いや、いや、いや! 全然良いよ、許す! へぇ、名前はエリンちゃんって言うんだ。おいダン、早く紹介しろよ。一体、どんな関係なんだ?」


 チャーリーが、まだ痛む頬をさすりながら問う。

 お詫びの意味もあり、ダンはこっそり治癒の魔法を掛けておく。


「ああ、エリンは俺の嫁なんだ」


「「「「よめ~!!!」」」」


 驚いたチャーリー達の声が、冒険者ギルド中に木霊こだました。

 彼等は目を丸くして、エリンをじっくり見た後に、またダンを見た。


 チャーリー達の反応に戸惑いつつ、エリンは名乗る。


「エリン……シリウスです。ダンのお嫁さんです」


 エリンの口から言い放たれた、決定的な事実。

 チャーリー達は、首をぶんぶんと振っている。


「「「「噓だろ~!!!」」」」


 「事実を受け入れたくない」という表情のチャーリー達を横目で見ながら、エリンはダンにお願いする。


「ええっと……ダン。エリン……いえ、私にもこの人達を紹介して」


 ダンは、どうしてこの人達と知り合いなのだろう?

 エリンは首を傾げながら、ダンの言葉を待った。


 どうやら、エリンが可愛いと称えられて誇らしいのだろう。

 ダンは少し得意げに言う。


「ああ、彼等はクランフレイム。俺がこのギルドでゴブリン討伐の仕事をした時に組んだ仲間さ。じゃあチャーリーから」


 自己紹介をダンに促されたチャーリーは、嫉妬を隠しきれないという様子である。


「ううう、俺、チャーリー・アトキンズ。冒険者ランクCの戦士。クランフレイムのリーダーをやってる」


「おいらはアーロン・エイベル。冒険者ランクC。クランフレイム所属のシーフさ」


「僕はコンラッド・ウォール。同じくクランフレイム所属。冒険者ランクCで僧侶なんだ」


「俺はニック・メラーズ。同じくクランフレイム所属。冒険者ランクC、魔法使いだよ」


「ええっと……チャーリーさんに、アーロンさんに、コンラッドさんに、ニックさんね……宜しくお願いします」


 エリンの記憶力は、抜群である。

 一回の挨拶で、完全に4人の名前と顔を覚えてしまった。


 人間の男性慣れしていないエリンはぎこちないが、にっこり笑う。

 こうなると、超美少女の笑顔に逆らえる者は居ない。


「「「「宜しくね~」」」」


 ダンへの悔しさを忘れたチャーリー達は、満面の笑みを浮かべ、エリンへ答えていたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます。

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