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第32話「仲直り②」

 お尻ぺんぺん!

 

 宿敵であるエルフの這いつくばった無様な姿を想像すると、エリンは面白くて堪らず、暫く笑い転げていた。

 

 まあ笑うといっても、エリンにさして悪気はない。

 意地の悪い嫌がらせをした罰として、ダンから尻を叩かれるくらい可愛いものである。

 

 優しいダンなら当然、手加減もするだろうし、別に命の危険があるわけではないからだ。

 自分より先に『夫』のダンと知り合った、エルフ女への嫉妬もあった。

 

 エリンはようやく笑いが収まると、ダンへ尋ねる。


「ねぇ、ダン。……王都って場所へ行って、ヴィリヤっていう、そのエルフ女に会うの?」


「おお、会うぞ」


「よっし! エリン、そいつをやっつける」


 エリンは拳を固く握ると、気合を入れて突き上げる。

 『やる気満々』という雰囲気だ。


 このままヴィリヤと会ったら、修羅場になるかもしれない。

 エリンは経験豊富な魔法剣士だし、ヴィリヤも一流の魔法使いだから。

 ダンは、ほんのちょっぴり心配になる。


「おいおい、会う前から喧嘩腰かよ。でもあいつ、最近は反省したらしくて結構素直なんだぜ」


 何故か、ダンがエルフを庇う。

 「いらっ」としたエリンは、舌を思い切り出して言い放つ。


「い~っだぁ! そんなのはどうせ上辺うわべだけのポーズだよぉ! ダンをいじめる性悪エルフはエリンにとっても敵。か弱い女でも関係ない! だから徹底的にやっつける」


「そうか……と、いう事はエリンも、俺と一緒に王都へ行くんだな」


「当然! エリンはダンのお嫁さんだもん、いつも一緒」


 エリンは真っすぐにダンを見ていた。

 

 自分はダンの嫁!

 だから離れない!


 揺るぎない決意を言っているのだ。

 ダンも、健気なエリンを置いていけない。


「分かった、じゃあアルバート達が来たら話を聞いた上で準備をしよう。で、エリンはどうする?」


「どうするって?」


 ダンに問われて、エリンは首を傾げる。

 よくよく聞けば、どうやらダンはエリンに気を遣ってくれたようだ。


「この前、あいつらに酷い事言われただろう? 顔を見るのも嫌だったら、話が終わるまで寝室で待っていれば良いさ」


「ううん! エリンもダンと一緒に話す、あの人達にちゃんと謝って貰うよ。だってエリンは何も悪い事していないのに、絶対おかしいもの」


 エリンの性格は、はっきりしていた。

 良いモノは良い。悪いモノは悪い。


 感謝したら、礼を言う。

 悪かった場合は謝る。

 とても分かり易い。


 そんなエリンを、ダンも擁護する。


「その通りだ。呪いなんて出鱈目の嘘っぱちさ。現にエリンが数日ここに居ても何も起こっていない、平和なものじゃないか」


 ダンに保証されて、エリンは嬉しくなる。

 もし自分が、呪われた不吉な子だったら……


 実は、一抹の不安がエリンにもあったのだ。

 エリンは言う。

 そんな不安を打ち消す為に。


「うん! エリンは絶対に呪われてなんかいないよ! だってダンはエリンと一緒だと幸せだって言ってくれたから。エリンはダンを幸せに出来るんだ! の、呪われていたらダンを幸せになんか出来ないよね? ねぇ、そうだよね?」


「そうだよ、俺はお前と居ると、凄~く幸せさ」


 一緒に居ると、凄く幸せ!

 エリンの喜びは、最高潮に達してしまう。


「ダ~ン!!!」


 ダンの言葉に感激したエリンは、彼の名を叫ぶと思いっきり抱きついたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 荷物を背負ったアルバートとフィービーが姿を現したのは、ダンとエリンが抱き合ってから、10分ほど経ってからだった。

 

 ダン達は、彼等が来ることを気付いていなかったかのように振舞う。

 誰でも友人や知人と喧嘩別れして、再び会いまみえる際は何となくばつが悪いが、今回もご多分に漏れずそうであった。


 ダンとエリンはアルバート達に気付いても、敢えて畑仕事を続けている。


 口籠りながら呼びかける、アルバートとフィービー。


「……あの、ダン……」


「ええっと……ダン」


「……何だ、アルバートとフィービーか、どうした?」


 ダンは相手の発する魔力波オーラで、エリンは自然な気配で、相手の気持ちを感じ取る事が出来る。


 どうやらアルバート達は、この前とは雰囲気が違うようだ。

 ふたりは、いかにも申し訳なさそうにしている。


「あれから……俺……凄く反省した。……何か言い伝えとか、一方的に噂を鵜呑みにして悪い事言ったなぁって……御免よ、許して欲しい」


「私も……謝りたい。……もし同じ事を言われたら、ショックで死にたくなるかもと思って」


 ダンとエリンは顔を見合わせた。


 エリンは、嬉しかった。

 それに、ダンの言った通りでもあった。


 アルバートもフィービーも、根は悪い人間ではない。

 

 この世界では、それほど創世神の言葉や言い伝えは深く重いのだ。

 加えて、今や人間社会で幅を利かせるエルフが持つ、ダークエルフに対する偏見と憎しみも大きいのである。

 

 そのような価値観と環境の下で暮らしていたら、必然的に染まらざるを得ない。

 ダンは、エリンへそう話したのだ。

 ふたりの謝罪の言葉を聞いたエリンが微笑んだので、ダンも優しく笑っている。

 

 改めてダンは問う。


「エリン、どうする?」


「うん! 良いよ、仲直りしよう」


 『お許し』は出た。


 アルバートとフィービーも顔を見合わせる。

 緊張が解け、ようやく「ホッ」とした表情になった。


「じゃあ皆で朝飯を食うか? どうせ起きてからすぐ来たのだろう?」


「い、いや……」

「ええっと……」


 アルバート達は、躊躇ちゅうちょしている。

 先日のダンの怒りが凄まじかったので、少し遠慮しているらしい。

 伝えるべきことを最低限伝えたら、すぐ退散しようという気持ちが見え隠れしていた。


 その時であった。


 ぐぎゅるるるる……

 ぐうううううう……


 アルバートとフィービーの身体は、正直である。

 大きな音で、ダンとエリンへ『空腹』である事を伝えたのだ。


「ははは、じゃあ4人一緒に朝飯食うぞ……良いよな?」


 ダンから屈託のない笑顔を見せられたアルバート達は、ばつが悪そうに頷いたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます。

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