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第3話 「深き深き地の底で」

 異世界へ召喚された大星ダンが勇者となり……しばしの時間が流れた。


 ここで舞台は切り替わる。


 ……地上より、遥かに離れた深き地下の世界があった。

 冷たく暗い、太陽の恩恵を受けない世界だ。

 神から呪われし者どもが、ひっそりと生きる世界でもある。


 この暗く冷たい世界で、ふたつの勢力が激しい戦いを繰り広げていた。


 ひとつは魔力に長けたダークエルフの一族である。

 いにしえに何らかの理由で万物の長たる創世神の不興を買い、地上から追われた妖精族の末裔だ。

 体躯は華奢だが、芸術作品のように整った、美しい顔立ちをしている。

 そんな彼等には、創世神より忌み嫌われた種族として暗い影が差すが……

 不幸な生い立ちを振り払うが如く、過酷な環境の中で必死に生きていた。


 もうひとつは悪魔族と呼ばれる、かつての天の使徒達の成れの果てである。

 こちらは、人間を寵愛する創世神の態度に嫉妬を覚え反抗し、罰として地の底へと堕とされた。

 清らかで美しかった姿は呪われて、おぞましい異形と化しており、かつての面影はない。

 元々力のある彼ら悪魔は、地の底で生まれた様々な魔族を従え、勢力を拡大して行った。


 この戦いは元々、悪魔族が地下世界を制覇せんとする己が野望の為に戦いを仕掛けたのである。

 ダークエルフの方は一切の欲を捨て、貧しいながら平穏に暮らそうとしていた。


 戦いは、最初からダークエルフが不利であった。

 悪魔を始めとした闇の魔族共は、強靭な肉体を誇り、戦う為に生まれ落ちたような存在であったからだ。


 長き戦いの末……

 ダークエルフ達は次々と斃され、そして今や滅亡一歩手前であった。


 ここはダークエルフの王宮、大広間である。

 激しい戦闘が何度も行われ、破壊されて荒れ果てた王宮に累々と重なる死体は両方の部族が混在していた。


「はっははは~っ! とうとう追いつめた! エリン、もう逃げられんぞぉ、降伏せい」


 腕組みをした、巨大な体躯の男が叫ぶ。

 豪奢な衣服を纏った、ふてぶてしい男。

 この男が、魔族の王らしい。


 身長は、ゆうに2m以上あるだろう。

 でっぷりとした貫禄ある体躯は、まるでビール樽のようだ。

 酒焼けをしたような赤ら顔、落ちくぼんだ目に光る瞳は深い緑色をしていた。

 嫌らしく開けた大きな口に、鋭い牙がのぞいている。


 背後には、夥しい異形の魔族共が薄ら笑いを浮かべながら従っていた。


「何を言う! 逃げたり、降伏などせん! 私はお前の兵をもう100以上は屠っておるぞ!」


 勝ち誇る男に対して、響き渡る凛々しい声。

 赤ら顔の男から、エリンと呼ばれたのは、真紅の革鎧を装着した美しい少女だ。

 

 身長は、160cmを少し超えるくらいだろうか。

 髪は腰まで伸びた長いストレートのシルバープラチナで、左右からエルフ族特有の尖った小さな耳が覗いていた。

 顔立ちはひときわ整っており、瞳は菫色。

 肌は薄い褐色で張りがあり、健康的な美しさを見せている。

 体躯はエルフ族らしく華奢だが、スタイルは抜群で、ぼんと突き出た大きな胸、 「きゅっ」とくびれたウエスト、小さなお尻は締まっており、脚も長い。


 長く厳しい戦いを続けて来たのか、あちこちに浅い傷を負っており、全身は泥塗れであった。


 エリンは、ダークエルフ王の娘だ。

 今となっては、数千人居た一族で、たったひとりの生き残りである。


 断固として抵抗すると言い放ったエリンを見て、赤ら顔の男は豪快に笑う。


「ぐはははは! 100倒しただとぉ? 小娘にしては中々やると言いたいが、どうせ我が眷属の中でもゴブリンやオークなどの雑魚であろう」


「何を魔王! お前や麾下の悪魔共も同じように私が殲滅してくれる!」


「ははははは! 間違えるな、エリン。余はただの魔王ではない、大魔王だ! 魔王の中の魔王、大魔王アスモスである! 大いなる予言通り、闇のエルフ、デックアールヴの姫として生まれて来たお前は余の花嫁となる運命なのだ」


「黙れ、アスモス! そのくだらない予言とやらの為にお父様を始めとして一族全てを殺すとは何という悪逆非道な男よ! 許すまじ!」


 気丈に叫び返すエリン。

 アスモスは、嫌らしく舌を突き出した。

 蛇のようなびっしりとした鱗が一面にある不気味な真っ黒な舌は、伸びた長さが1m以上もあり、嫌らしく「じゅるり」と音をたてて唇を舐める。

 それを見たエリンの全身を悪寒が襲う。


 アスモスは大きな口を開け、再び笑う。

 鋭い牙がびっしり生えた、咥内が不気味である。


「ははは、何を言うか、罪深き女よ! 破壊神による予言は絶対である! 我が恋路を邪魔をする奴は皆殺しだ。余からどうしても逃れたいのであれば死しかあるまいて」


「外道め! わ、私は……死なない! 私を守ろうと死んでいった一族の為に自死などするものかっ!」


「ははは、ならば大人しく我が花嫁となるがよいわっ! 行けっ、我が眷属共っ!」


「もし……死するのなら」


 エリンは呟く。


「最後まで戦って華々しく死するのみっ!」


 おおおおおおおっ!


 エリンの叫びに反応して異形共が吠えた。

 下級悪魔を始めとして、ゴブリン、オーク、オーガなどの混成部隊であり、夥しい数であった。

 わめいたり、舌なめずりしてあるじのアスモスを称えている。


 唇を嚙み締めたエリンは、忌まわしい圧力を跳ね返すが如く叫ぶ。


「一族の守護を司る大地の精霊(ノーム)よ! 我に力を!」


 エリンの目の前に異界から呼び出された大きな岩塊がいくつも現れた。

 地の精霊魔法『岩弾』である。


ショット!」


 エリンが言霊を叫ぶと岩塊は悪魔共に突き進む。


 ぎゃああああっ!

 おごうううううっ!


 「ぐちゃり」と肉が潰れる音。

 「ぶしゅう」と飛び散る青い血潮。


 そして、飛び交う断末魔の悲鳴。


 岩塊は悪魔共を押し潰し、文字通り場は阿鼻叫喚の地獄と化す。

 しかしアスモスは、部下が無残に殺されているのに顔色ひとつ変えなかった。

 腕組みをして微動だにせず、不敵な笑みを浮かべているのだ。


 気合を込めて、エリンは何度も何度も魔法を撃ち続ける。

 夥しい回数の魔法が放たれ、アスモスに従っていた魔族共はほぼ全滅していた。

 しかしエリンも魔力を使い切る寸前なのだろう。

 消耗も激しいらしく、肩で息をしている状態であった。


 アスモスがエリンを見て、面白そうに笑う。


「ははは、やはり中々な地の魔力。お前を守護する大地の精霊(ノーム)の力は素晴らしい。我が魔力と合体すればこの地の底は我が天下……そして蓄えた力はやがて地上へと向けられよう」


「撃!」


 アスモスの言葉が終わらないうちに、再びエリンの口から言霊が唱えられた。

 大きな岩塊が同じように現れ、アスモスへ向かって突き進む。


 しかし、アスモスは両手を突き出す。

 高速で突き進んだ無数の大岩がアスモスの手前で虚しく砕け散った。


 どうやらアスモスは魔力で障壁を作ったようである。


「ひゃはははは、そんなモノ、我には効かぬ、効かぬなぁ……」


「くっ! 撃!」


 しかし全く同じであった。

 エリンから放たれた大岩は、またもやアスモスの目前で、粉々に砕け散ったのである。


「はっは~、やはり我が偉大なる魔力波オーラの前ではこんな小石など蚊ほども効かぬ」


「く、くう!」


「ははははは! おうおう元気な女め、見よ、可愛いお前を抱きたくてな。ほれ、我が分身も猛っておる!」


 アスモスは嫌らしく笑う。

 そして異様に大きく、山型に盛り上がった下半身を突き出すと、「くいっ」と動かした。

 アスモスのズボンの下に隠された、考えたくもないような異物が、エリンにイメージされる。

 エリンの表情がひきつったように強張り、これ以上ないという嫌悪に染まった。


「お、おぞましい! ケ、ケダモノめ!」 


「おお、エリン! 我が花嫁! お前の悲鳴は心地よく、呪詛の叫びは最高の褒め言葉である! さあてそろそろ言葉遊びにも飽きたわ! 余が直々にお前を抱くとしよう」


「よ、寄るな! 寄るなぁ~っ!」


 エリンが叫ぶ。

 迷わずに、腰のショートソードを抜き放つ。

 まだまだ諦めず、抵抗をする気であろう。


 しかし!

 エリンの運命は、風前の灯火である。

 地の精霊の加護を受けた強力な魔法を、難なく退けたアスモスにこのような剣の攻撃など効く筈がないのだ。


 と、その時。

 エリンへ向かって歩むアスモスの足が「ぴたっ」と止まったのである。


「むう、何かが……来る……しかもこの巨大な魔力……一体、何だ?」


「…………」


 どっがぅ~ん!!!


 いきなり宮殿の壁が大きな爆発音を立てて「がらがら」と崩れ落ちた。


「何者だ!」


 鋭い声で叫ぶアスモス。


 壊れた壁の穴から……現れたのは長身痩躯な法衣ローブ姿の男だ。

 刈り上げてさっぱりした黒髪、黒い瞳を持つ20歳くらいの若い男である。

 法衣姿の男は左右を見渡すと、さも「しまった!」というように顔をしかめる。


「あれ? 俺、方角を間違えたかな?」


 男は惚けたように「しれっ」と言い、大きく首を傾げたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます。

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