第191話「外伝・勇者ダン、その後……」
本編と外伝合わせての『本』最終話です。
何卒宜しくお願い致します。
皆様、ご無沙汰致しております。
私は、この長き物語の名も無き『語り部』でございます。
今回は特別に、私の方からこの物語本編と外伝の『補足』と『総括』を語らせて頂きたいと思います。
少々皆様のお耳をわずらわせ致しますが、どうかご容赦くださいませ。
では……宜しいでしょうか?
早速、話を始めたいと思います。
召喚されたダンは単独で……
または、冒険者ギルドで知り合った仲間達と、多くの激しい戦いに身を投じました。
そして、与えられた『勇者』の資質をひたすら磨き、見事に開花させたのです。
すなわち、人に害為す通常の魔物討伐は数限りなくこなし、経験値を上げ……
また創世神の神託を受け、この世界へふりかからんとする高難度の災厄をいくつも退けたのでございます。
やがて……
ダンは火と風の精霊に祝福も受け、ふたつの属性魔法を完全に使いこなすようにもなりました。
特に風の魔法においては、世界の根幹を為す高貴なる4界王のひとり、空気界王オリエンスの大きな加護も受けるほどにまでなったのです。
そうこうしているうちに、ひとつの大きな転機が訪れました。
それはヴィリヤとの関係がガラリと変わった事でございます。
ダンを召喚し、まるで奴隷か家畜のように扱っていたエルフの魔法使いヴィリヤでしたが……
冒険者ギルドからダンの報酬の上前をはねるというとんでもない悪行が発覚。
とうとうダンの怒りが爆発したのです。
ダンはまるで、おいたをした子供をしつけるよう、ヴィリヤをこらしめ、
主を守ろうとした副官ゲルダをも退けました。
この事件を機に、ダンとヴィリヤのいびつともいえる『主従関係』は解消されました。
ダンはヴィリヤに対し、同等以上の態度で振る舞えるようになりました。
経験を積んで行く中で、勇者としての資質が開花し、ヴィリヤの持つ力を遥かに凌駕していた事も大きいといえましょう。
そして……
ダンを単なる『モノ扱い』していたヴィリヤの心情にも大きな変化が生じました。
ソウェルの血筋たるアスピヴァーラ家の誇り高き令嬢として、己の思うがまま、わがまま放題にに生きて来たヴィリヤにとって……
生まれて初めての厳しい叱りを受けたのでございますから。
それは当然の事かもしれません。
これがきっかけで……
ヴィリヤの心には、ダンへのほのかな想いが芽生えたのも皮肉というのか、全く不可思議な事でございました。
まさか、後にヴィリヤがダンの妻になるなど……
神託による勇者召喚という、極めて特異な出会いを考えれば、誰が想像出来たでしょう?
アールヴに限った事ではございませんが……
やはり人の心というのは小さな宇宙。
未知でとらえどころのない、奥深い場所なのですね。
さて……
ダンはもう頃合いと判断し……
改めて、アイディール王国宰相フィリップと会合を持ちました。
結論から申しますと……
これまで暮らしていたヴィリヤの屋敷を出て、ダンひとりで王都とは別の場所にて暮らす事を認めて貰ったのでございます。
仕方なくという感じで、フィリップはダンの要求を条件付きで認めました。
もしも断れば、「アイディール王国とは決別する」とダンが伝えて来たからでございます。
ここまで言われると、折角召喚した『勇者』を手放したくないフィリップは、ダンの希望を認めざるを得なかったのです。
勇者としてのダンの力が万が一、悪に転じる可能性があると大いに懸念した事も原因のひとつであると、容易に想像出来ます。
ダンの要求を呑んだフィリップの出した条件とは……
妹の巫女ベアトリスから、創世神の神託がくだされれば、ダンは今迄通り働く事。
ダンの住む場所はアイディール王国内フィリップの目が届く彼の直轄地に限る事。
また勝手にその地を離れぬよう監視役をつける事も申し付けました。
ダンは自分の主張を受け入れてくれたフィリップの顔を立て、
王都から少し離れたフィリップ直轄の田舎の村ラーク付近に粗末な家を与えられ、住む事になったのでございます。
他にもダンは、今後円滑に暮らして行く為の手立てをフィリップから与えて貰いました。
神託から生じる、強き勇者でなければ絶対に果たせない困難な任務を、もしもクリアすれば……相応の報酬を受け取れる事となりました。
王都においては、金さえ払えば秘密裏に買い物が出来る手配もして貰ったのです。
この頃のダンは、地上においては、ほぼ無敵といえる巨大な力を手に入れておりました。
しかし人としての本能や欲望に希薄なダンはその力を使い、世界を征服しようなどとは思いませんでした。
さてさて、ダンに課せられた、神託から生じる任務とは……
世界の災厄と称されるものばかりでした。
大きな力を持つ勇者とはいえ、ダンは不死身ではありません。
また不老不死でもありません。
もし任務遂行の最中、己の命を落とすような事があれば、それも致し方無しとダンは考えておりました。
そう、ダンは潔く死ぬ覚悟をしていたのでございます。
もしも死ねば、この数奇で不可思議な人生を自然に終わらせられると考えておりました。
死して再び転生するとか、方法は問わない、何でも構わない……
たとえどんな形でも、家族の下へ還れるかもしれないと……
敬愛する父と愛しい妹に再会する可能性はゼロではないと……
一縷の望みを持っていたからでございます。
召喚されて少し後で、ダンは考えた末、自死するのをやめました。
生きるまで、この世界で生きて、家族の下へ戻ろうと考えたのと同時に……
死なずに生きて戻る希望もけして捨ててはいなかったからです。
こうして……
ダンは王都を出て、新たな暮らしを始めたのでございます。
ひなびた地にひとり住むという『隠れ勇者』の生活を。
さすがにひとりでは話し相手さえも居ないと、辛く感じたのでしょう。
ダンは習得した召喚魔法で人外の従士を呼び出し、『友』と致しました。
冥界の魔獣ケルベロスとオルトロスの兄弟、妖精猫のトムなどでございます。
また住まい付近のラーク村から、ダン監視の任についた元騎士のアルバートとフィービーも……
元戦闘職とは思えない、その穏やかな人柄から、ダンと折り合う事が出来、数少ない友人として貴重な存在となりました。
ちなみに……
やはりというか、ヴィリヤの言った通り、
ダンの行使する召喚魔法は自身を元の世界に送る事は不可能でございました。
大いに失望したダンではありましたが、ようやく訪れた新しい生活はけして嫌ではありませんでした。
前世も含め、今迄の人生において……
時間の流れが止まったような……
静かな辺境の地でダンは暮らした事がありませんでした。
だが……
勇者なのに戦いを嫌い、平和を愛する彼の性には合っていたようでございます。
ダンがひとり隠れ住むようになって、しばしの月日が流れ……
勇者たるダンの人生において、最大の転機が訪れました。
最大の転機、それは巫女ベアトリスから新たにくだされた創世神の神託、
『悪魔王アスモデウス討伐』から生じました。
ダンは悪魔王討伐の最中、大いなる運命の伴侶であるダークエルフ……
否、デックアールヴの美しき姫エリン・ラッルッカと出会ったのでございます。
ダンは圧倒的な力で、アスモデウスを倒し、穢されんとしていたエリンを救いました。
片やエリンは、真の勇者の資質を感じ取ると共に、デックアールヴ特有の優れた直感からか、ダンを運命の相手だと認識したのでございます。
さて!
いろいろありはしましたが……
ダンは妻となるふたりのエルフ、エリンとヴィリヤ以外にも、将来彼の妻となるふたりの少女とも出会いました。
ひとりは創世神の巫女アイディール王国王女ベアトリスと、
もうひとりは同国王都トライアンフの居酒屋『勇者亭』で働いていた孤児のリアーヌでございます。
紆余曲折ございましたが……
美しい少女達4人とダンは結ばれ、その後の長き人生を共にする事となりました。
私が皆様に語った物語の本編において、既にお伝えしている通りでございます。
またエリンと邂逅したダンの活躍も、巡り会った人々と結ばれた固い絆も……
気になる彼の行く末も……
存分に伝えられているとは思います。
宜しければ、本編と外伝を共に、
改めてお読み頂ければ幸いでございます。
敢えて、再び申しましょう。
……ダンは死して、元の世界に還り、愛しい妹ネネと再会したのか。
それとも数千年後の違う異世界で、
エルフ――妻のアールヴ達も死に絶えた異世界で……
愛する妻エリン、リアーナ、ヴィリヤ、ベアトリスの4人と再会出来たのか?
心の絆を結んだ仲間達は一緒なのか、興味は尽きないかもしれません。
そして私はまた別の機会に……
未だ語られていない『救世の勇者』の物語があれば、再び皆様へぜひともお伝えしたいと思います。
その際は、何卒宜しくお願い致します。
では……いずれ、
またお会い致しましょう。《最終完結》
『隠れ勇者と押しかけエルフ』は今回の話で完結です。
ご愛読ありがとうございました。
外伝を追加致しました。
本編と共に楽しんで頂ければ幸いです。
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