第188話「外伝・危機一髪!」
ダンがクラン炎のメンバーと知り合って、2か月が過ぎた。
一度人と交わり、心のぬくもりを知ったダンは、徐々にだが他のクランとも交流するようになった。
中でも特に親しいのが、やはりクラン炎であった。
ダンを入れた5人で、チャーリーお気に入りの居酒屋勇者亭などでつるむ事も多い。
そう……
勇者亭とは初めて出会った日に5人で昼飯を食べた店なのである。
その時に、たまたま休みを取っていて、ダンは会う事が出来なかったが……
この店にはチャーリーの、否、クラン炎全員が憧れる素敵な女子が居る。
リアーヌというグラマラスな美しい少女である。
勇者亭に給仕の女子は何人か居て、皆レベルが高いのだが、飛び抜けて可愛いのがリアーヌであった。
常連の冒険者の間ではリアーヌは『勇者亭のアイドル』と呼ばれていた。
幸い、今日リアーヌは出勤していた。
ダンが見やれば……
チャーリーが言う通り、リアーヌは可憐な顔立ちと、抜群のスタイルを誇っている。
元気で、はつらつとした接客が好ましい。
性格も明るく優しく申し分ない。
そのリアーヌはここ最近、元気がないらしい。
理由は冒険者が一番良く知っていた。
実は……
リアーヌには双子の兄が居た。
ダン達と同じ、冒険者を生業とするルネである。
ルネに、ダンは会った事がなく、チャーリー達も顔見知り程度ではあったが……
このルネが最近、ある依頼遂行中の最中、行方不明になってしまった。
死んだという噂もあった。
ルネが行方不明になった場所は、
アイディール王国の冒険者達の間では有名な『英雄の迷宮』下層であった。
この迷宮は『人喰いの迷宮』という異名もある。
人喰いといっても、迷宮自体が生物で人間やアールヴを喰らうわけではない。
以前から、迷宮内で多くの者が突然行方不明となっていた。
この事象を皆が怖れ『人喰い』の異名を付けたのだ。
迷宮で捕食者たる魔物に襲われると、遺体は喰われて残らない事もままある。
しかし『人喰い』の犠牲となった行方不明者は、武器防具、装身具なども含め、一切痕跡が残らない不思議な消え方をするのだ。
ルネはあるクランに雇われ、行方不明者の捜索を行っていた。
その途中、魔物の急襲を受け、混乱の最中行方不明になったというのだ。
閑話休題。
……リアーヌは兄が行方不明になっても、元気に思える。
相変わらず朗らかで、皆に優しい。
だがチャーリー達は気付いていた。
時たまリアーヌの表情に暗い陰が射す事を……
ダンが初めてリアーヌに会ったその日……
勇者亭において、とんでもない事件が起こったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ダン達が来店した日の午後……
たまたま店主のアルバンが不在であった。
ランチが終わり、少し店が空いた隙に……
上得意の客の為、市場へ食材を買い出しに行ったのだ。
一方、ダンとチャーリー達クラン炎はランチが終わってもまだ勇者亭の店内に居た。
今回は少々難度の高い依頼が無事に終了。
報酬もバッチリ受け取り、皆気分が良かった。
こうるさいヴィリヤが居ない事もあって、ダンも勧められるまま、しこたま酒を飲んだ。
結局……
全員思ったより酒が進み、ダンも含めてだいぶ酔っぱらってしまう。
気分が高まった勢いで、ナンパに出かけようと言い合う始末……
終いには……
誰が可愛い女性をモノに出来るか、賭けたようだ。
と、その時。
急に表が騒がしくなった。
「な、何だよ? 何事だ……」
チャーリーのつぶやきが終わるか終わらないうちに……
どやどやと、冒険者の一団が店内へ踏み込んで来た。
全員が中年の男であり、目付きが鋭く、顔付きが険しい。
冒険者の男達を見たダンは「こいつらは凶相だ」と瞬時に思った。
悪い予感がする。
何かが……起こる。
不安がよぎる。
ダンの不安は的中した。
凶相の男達の目的はひとつだった。
『リアーヌ』の拉致、すなわち『誘拐』である。
全員がリアーヌに突進し、取り囲んだ。
傍から見ても、男達が誘拐した後、「リアーヌに何をする」のかは明白であった。
「ヤバイっ!」
酔いながらも、チャーリーが、アーロンが、コンラッドが、ニックが立ち上がり、すわ一大事とばかりに駆け出した。
酒が原因で、足が絡まりながらも必死で走る。
「こ、こら~~っ!!」
「く、くそおやじ~~っ!!」
「何をする~~っ!!」
「リ、リアーヌさんから離れろ~~っ!!」
チャーリ達は叫びながら飛びつくが……
凶相の男達は手練れらしい。
「この餓鬼どもぉ!」
「邪魔すっと、ぶっ殺すぞ!」
「くぉらぁ!!」
男達の罵声と……
肉をうつような音が何回か響くと、クラン炎の全員がのされ、床に転がってしまった。
「お、お兄ぃ~~っ!!! 助けて~~っ!!!」
行方不明の兄が、今すぐ来るわけがないのに……
リアーヌは「届け!」とばかり、悲痛な声をふりしぼり叫んだ。
しかし男達は全く動じず、リアーヌを連れ出そうとする。
「おい、さっさと女を連れて行くぞ」
「へい、ボス」
「たっぷり、ねっとりお楽しみと行きましょうや」
テーブルにひとり残されたダンは、大きくため息をつき、ゆっくりと立ち上がる。
声は殆ど出ていないが、口元が僅かに動いている。
どうやら誰かの名前を呼んだらしい。
ネネ……今助けてやるからな、待ってろ……
ごくごくちいさな声ではあったが……
店の隅へ逃げた、給仕担当の女子の耳には、確かにそう聞こえた。
ゆらりと陽炎のような頼りなさで……
ダンは男達へ近付いて行く。
「このくそガキがぁぁ~~~!!!」
男達の『ボス』がダンに気付いた。
『ボス』はとても短気のようだ。
邪魔をされると「切れる」性格らしい。
ふしくれだったなすび色の拳をふるい、配下に任せず、自らなぐりかかって来た。
「うっせ~ぞ、……てめえだってくそおやじだろがよ」
怒りの波動を発するダンが低く呟いた瞬間!
どぐわっしゃぁぁぁっ!!!
拳を躱され、カウンターでダンに殴られた『ボス』は……
無残に鼻がひしゃげ、顔面が見て分かるほど陥没していた。
そして……
殴られた反動で身体を回転させながら宙を飛び……
派手な音をさせ、近くのテーブルに突っ込む。
そのまま……
ぴくりとも動かない。
やがて……
うつぶせになったボスの顔面から、おびただしい血が流れて来る。
部下らしき残りの男達は、予想外の惨事に固まってしまったが……
気を取り直して首をぶんぶん振ると、全員が一斉にダンへ向かい、殴りかかって来た。
しかし!
どぐぅ!
ばぎいん!
ぐっしゃ!
ばごぉ!
ボスが瞬殺されたのだ。
子分などダンの敵ではない。
当然ながら、あっという間に全員が床に伏してしまった。
結局……
クラン炎、乱入した男達全員が意識を失い倒れ……
その場に立っているのは、ダンとリアーヌだけであった。
予想だにしなかった展開に……
助けられたリアーヌは驚愕。
大きく目を見開き、ポカンと口を開けていた。
対してダンは微かに笑った。
「待たせたな……」
「え?」
「お姉ちゃん、俺と遊びに行こうぜ」
「…………」
ダンは頭の片隅にチャーリー達との勝負事があった。
『ナンパ』という勝負事が。
酔った勢いで……
ついリアーヌを「誘ってしまった」のである。
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