第187話「外伝・クラン炎①」
ダンは登録の数日後、冒険者デビューした。
記念すべき初仕事は、アイディール王国王都トライアンフ近郊の農村にて、農作物に害を為す魔物の退治であった。
具体的にいえば、魔物の中では最弱といえるスライム10匹の掃討である。
仲間を募らず、クランにも所属しない単独での依頼遂行だった。
しかしながらダンはランクB。
……本当はランクBも遥かに超える実力を持つ。
当然ながら容易に依頼をクリアした。
鍛錬の結果、ダンの攻撃力は目に見えるほど上がっていた。
物理攻撃には比較的強いスライムではあったが……
ダンがほんの少しだけ力を入れて、剣を突き刺すと、呆気なかった。
相手はあっさりと砕け散ったのである。
喧嘩を殆どしなかったダンにとって……
生まれて初めての実戦であったが……
魔物が相手だった事もあり、ダンは相手に憐憫の情を覚えなかった。
心を殺し、ただ淡々と、情けを交えず敵を倒した。
それがヴィリヤの教えだった。
次に倒したのは……
魔物ではやはり最弱レベルとされるゴブリンであった。
ゴブリンは基本、数十頭以上の群れで行動し、数で相手を圧倒する。
しかし討伐依頼を受けたダンが遭遇したのは10頭に満たない小群。
スライム同様に、あっさりと倒した。
ちなみに、今度は剣ではなく魔法も組み合わせて使った。
かといって派手に魔法を使ったわけではない。
現場は深い森の中。
やたらに火属性魔法を行使すれば、山火事になる可能性がある。
講義により、ヴィリヤからゴブリンは火が弱点なのだと学んでいた。
なので指先から炎を少し出現させると、ゴブリン達は怖れおののき、逃げ腰となった。
そこを剣をふるって倒した。
火に怯えるゴブリンは無抵抗だったが関係なかった。
スライムと違って、緑色の血しぶきがあがったが、臆さなかった。
無表情で淡々と首と胴を切り離し、容赦なくとどめをさした。
それからもダンは……
ソロの上位ランク冒険者として依頼をこなして行った。
オーク、オーガなど上位種の魔物との、厳しく激しい戦いを重ねるにつれ……
離れ離れになった妹ネネの記憶も同時に、深き心の奥底へ沈めて行った。
ふと、自分が……
ギルドマスター、ベルナールと全く同じ哀しみの波動を出していると気が付いた。
ベルナールも自分同様、悲劇的な別離を味わったのかと思い、少しだけ共感を覚える。
反面、心を殺す事で、他人に全く干渉せず、無関心にもなって行った。
ひどく冷淡になって行く自分を感じてもいた。
ダンのこなす依頼は徐々に高難度のものとなって行った。
こうして……
魔法を使う剣士ダンの名は徐々に、アイディール王国の冒険者達の間に知られて行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そんなある日の事。
ダンは冒険者ギルドの掲示板を眺めていた。
何か適当な依頼がないかと探していた。
とりとめもなく、魔物を倒し依頼を遂行していく。
ゲームの経験値稼ぎの様な、単調な日々が続いている最中の事であった。
「ダンというのは君かい?」
若い男がいきなり声をかけて来た。
このような事は、今迄にも多々あった。
おそらく、勧誘なのだろう。
それがクランへの所属なのか、依頼遂行の補助なのかはわからない。
しかしダンは全てを断って来た。
人間関係のわずらわしさから、他人と交わりたくなく、いつもひとりで居たかった……
それゆえに、アプローチを全て断っていた。
但し、少なくとも返事をする事だけはこころがけていた。
それが最低限のマナーだと思っていたから。
「おう、俺がダンだ」
「やっぱり、そうか。俺はクラン炎のリーダー、チャーリー・アトキンズ。君にお願いがある」
チャーリーは戦士らしく、筋骨隆々。
逞しい体つきだ。
「お願い? 勧誘ならお断りだ」
「そこを何とか、頼むよ」
チャーリーは両手を合わせた。
いかつい戦士なのに、どことなく愛嬌がある。
それに悪意の波動は感じない。
憎めない男のようだと思う。
しかしダンは首を横に振った。
「いや、悪いが断る」
「そ、そうか……」
チャーリーは口ごもりながら、意外にあっさりと引き下がった。
去って行くチャーリーの背を見ながら、ダンはチャーリーの顔に見覚えがある事を思い出した。
そう……
ある依頼を遂行した後、居酒屋で食事を摂っていた時の事だ。
隣のテーブルにチャーリーを含めた若い男達が食事をしていた。
全員冒険者らしい男達の表情は明るかった。
どうやら自分と同じく『依頼』を完遂したらしい。
その祝宴なのであろう。
黙って、食事を摂るダンの耳へ男達の喧噪が入って来る。
少しうるさいかとも思ったが、注意などしない。
そもそも、居酒屋で騒ぐなというのもおかしな話だから。
なので、ダンはそのまま、食事を続けていた。
そのうちに……
チャーリーの仲間達が彼を「いじる」声が聞こえて来た。
いじられても、盾役らしいチャーリーは笑顔が絶えない。
気は優しくて力持ちという言葉を地で行っている。
多分……
昔話の金太郎みたいな男子なのだ。
更に……
いろいろ話を聞いていれば、チャーリーは相当なお人よしでもあるらしい。
つい、ダンの口元もほころぶ。
心が温かくなる。
ふと……
仲が良かった、昔の気のいい友達を思い出した。
そして……
妹ネネの笑顔も浮かんで来る。
可愛い声も聞こえて来る。
「お兄ちゃんは優しいね。だから大好きぃ」
単なる幻聴だと思う……
だけどダンは……
久々に優しい気持ちになれた。
だから……
チャーリーへ礼をしようと思う。
「おい、ちょっと待ってくれ」
「え?」
振り返ったチャーリーへ……
ダンはこの世界へ来て初めて、晴れやかな笑顔を見せていたのであった。
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