第178話「最後の神託②」
フィリップはガラリ、態度が180度変わってしまった。
対してダンは困った顔をし、手を左右に大きく打ち振った。
「フィリップ様、勘弁してください。俺自身は全然変わらない、今迄通りダンと、思い切り呼び捨てにして欲しいのです」
「い、いや……『救世の勇者』様に対し、呼び捨てとは畏れ多い。さすがにそれは出来ないぞ!」
数千年に一度現れるという偉大な救世の勇者にため口?
思い切り呼び捨て?
さすがに公衆の面前で勇者ダンを呼び捨てにしたら、フィリップは王族とはいえ世間から、否、この世界全ての者からひどく非難されてしまう。
絶対に……間違いない。
「お兄様、どちらにしても、これからお兄様の、ダンへの呼び方は全く変わりますわ」
ここで、ベアトリスが謎めいた事を言った。
「え? どちらにしても、勇者様への呼び方が全く変わる? ベアトリス、一体どういう意味だ、それは?」
愛する妹の、この物言い……
何故だろう?
フィリップは何となく『嫌な予感』がした。
微妙な表情のフィリップを華麗にスルー、ベアトリスはにっこり笑う。
「とりあえず、エリンさんの擬態を解き、素の姿でお話ししましょうか。ダン……お願いします」
「了解だ。エリン、行くぞ」
「はい! 旦那様」
またも!
今迄と同じ光景が繰り返された。
エリンにかけられた、変身の魔法が解除されたのだ
栗色の髪をした美しい人間の少女から……
人間の持つ美しさとはとは全く違う、妖精族の可憐な趣きを持つシルバープラチナ髪のデックアールヴの少女へと……
容姿が変貌したたエリンを見て……
フィリップは大いに驚いたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
こうして……
神託を告げる準備は整った。
ベアトリスは相変わらず余裕綽々、艶然としていた。
「……これから私がダンとふたりで話しますね。お兄様は、私達の話を良く聞いていて下さいませ」
「あ、ああ……」
口ごもるフィリップから視線を外し……
ベアトリスは、次にダンへ話し掛ける。
「……ではダン、改めて聞きます、良いかしら?」
「何なりと」
さすがにダンも、真剣な顔で頷いた。
ダンの表情を見たベアトリスは、更に念を押す。
「宜しい! 以前、このベアトリスと交わした約束を覚えていますか? もし忘れたなどと言ったら……怒りますよ」
「ああ、大丈夫だ。絶対に忘れやしない、良く覚えている」
「ありがとう、ベアトリスは安心しました。では、何度もで申しわけありませんが……その約束の際、貴方が発した物言いを、再びこの場で……全員の前で告げて貰えますか」
「分かった!」
「…………」
ダンの了解を聞き、ベアトリスは無言で微笑む。
一方のダンは、少しだけ苦笑していた。
しかし、ベアトリスとの約束はけして忘れないし、悪戯に誤魔化したりもしない。
「では言おう。……ベアトリスが、もしも行くところがなければ、俺のところへ来い。理由を話して、フィリップ様には俺からお願いする」
「はい! 一言一句その通りです」
妹とダン、ふたりの会話を聞き、フィリップは驚愕した。
ショックのあまり、つい先ほどのやりとりを忘れてしまう。
偉大な『救世の勇者』ではなく、『いつものダン』へ遠慮のない言い方をしてしまう。
「な、何だ! おい、ベアトリス! それにダン、俺のところへ来いってどういう意味だっ!」
お、俺のところへ来い?
もし、行くところがなかったらって?
これは!
何か、とんでもない予感がする。
フィリップは身体が震えて来る。
しかし、ベアトリスは「しれっ」と言う。
「静粛に! お控えください、お兄様」
「だ、だが!」
「聖なる神託を告げている最中です。余計なお言葉をはさまず、そのままお聞ききくださいませ」
有無を言わさない……
創世神の巫女たる妹の迫力に圧倒され、フィリップは了解するしかない。
「わ、分かった……」
しかめっ面のフィリップが引き下がり……
ベアトリスは、再びダンへ問いかける。
「あと、ダンが特に強調していた言葉も告げて下さい」
「もしも! 万が一! の場合……だけだぞ、あくまでも……と言った」
ダンの言葉を聞き、ベアトリスは大きく頷いた後、返事をする。
「はい、その通りです! そして……万が一の場合が遂に参りました」
「そうか! 万が一……と、いう事は……成る程、了解だ」
ベアトリスの口ぶりから、ダンはもう、神託の『内容』を完全にくみ取ったらしい。
ダンの肯定を聞き、ベアトリスは満足そうに微笑んだ。
そしてきっぱりと言い放つ。
「では、皆様へ今回の神託を申し上げます! ちなみに創世神様の巫女としては、これが『最後の神託』となります」
「「「「…………」」」」
いよいよ……
ベアトリスから『最後の神託』が告げられる。
部屋の中は、再び静まり返った。
静寂の中、ベアトリスの厳かな声だけが朗々と響く。
「創世神の巫女ベアトリス・アイディールよ、汝は救世の勇者ダン・シリウスへ嫁ぎ、妻となれ。ダンと共に新たな使命を果たせ……ですっ」
「「「「…………」」」」
今度の沈黙は……驚きの反応である。
ダンのみが目を閉じ、苦笑していた。
ベアトリスは、神託を告げ終わると……
「大仕事を終えた!」というように、大きく息を吐いた。
「と、いう事になりました。このように不束な女ですが、宜しくね、ダン」
相変わらず苦笑するダンに対して……
ベアトリスは、可愛らしく片目をつぶり、舌を「ぺろっ」と出したのであった。
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