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第170話「ヴィリヤの告白」

 ヴェルネリは再び呆然としていた。

 当然彼はデックアールヴの『容姿』を知っている。


「こ、この娘の姿は! ……何という事だ。間違いない……」


 呟いたヴェルネリへ、すかさずダンが言う。


「ソウェル殿、貴方の考えている通りさ。エリンはデックアールヴ、それも王の娘だ」


「…………」


「貴方は祖父や父から聞いていたのだろう。だが、改めて真実を認識し、実感した筈だ。デックアールヴが呪われているなど、くだらない迷信に過ぎない事を……」


「…………」


「貴方の孫娘ヴィリヤも、こうして無事に迷宮から戻って来たのだからな」


「…………」


「お祖父様!」


 またも無言となってしまったヴェルネリへ、ヴィリヤが叫んだ。

 自分の今の気持ちを、全てを祖父へ伝えたい!

 そんな思いが、はっきりと表情に表れていた。


 愛する孫娘が、切ない気持ちをこめて自分を呼ぶ声。

 ハッとしたヴェルネリも、無言のままではいられずに同じく孫娘の名を叫ぶ。


「ヴィリヤ!」


「はい! お聞き下さい、お祖父様! 先ほどもお伝えしましたように……私は英雄の迷宮へ入りました」


「うむう……」


「ゲルダには危険だと止められたし、散々注意されました。それなのに……世間知らずな未熟者の癖に、愚かにも自分の力を過信しておりました」


「ヴィリヤ……お、お前……」


「迷宮は……私の想像以上に厳しく怖ろしい場所でした。魔物だけではない、人間同士、アールヴ同士でも殺し合う、本能と欲望をむき出しにした、地獄のような場所でした」


「…………」


「この世の縮図ともいえる迷宮で起こった出来事は、世間知らずの私にとって、初めての体験ばかりでした。戸惑い、混乱する、そんな私を支え、助けてくれたのは……ダンとエリンでした」


「むうう……」


「当然ですが、私はエリンの正体を知りませんでした……」


「…………」


「先ほどまでと同様に、彼女はダンの魔法で、人間に擬態していましたから」


「…………」


「本来なら……私がダークエルフ、つまりデックアールヴに対して持っていた感情を、嫌悪感を……エリンだって、私には持っていた筈なのです」


「…………」


「真実を何も知らない私達は、ただ犬猿のようにいがみ合い憎み合う間柄だったのですから」


「…………」


「ですが……エリンは割り切り、リョースアールヴの私を受け入れてくれました。くじけそうになる私を何度も励まし、力付けてくれました。……大切なかけがえのない仲間として……そして私も彼女を助ける事が出来ました」


「ヴィリヤ、お前が助けた? この子をか?」


「はいっ! エリンのお父様とデックアールヴの一族は……悪魔王アスモデウスと眷属共に殺されました。エリンには……その時の酷いトラウマが残っていたのです」


「おお、それは……」


 思わず言葉を呑み込んだヴェルネリはついエリンを見た。

 見られたエリンは、陰惨いんさんな記憶を思い出したのか、やや顔を強張らせていた。

 しかし、何とか微笑んでもいる。

 

 と、ここで再びヴィリヤが話を続ける。 


「……アスモデウスにけがされそうになったエリンは、すんでのところでダンに助けられました。でも……目の前で肉親と仲間を無残に殺され、彼女は心に深い傷を負ってしまったのです」


「…………」


「私がその真実を知ったのは、だいぶ後でした。だけど……エリンがずっと苦しんでいるのを知り、少しでも辛さをいやしてあげたい! 彼女を助けたい! ……心の底からそう思ったのです」


「…………」


「英雄の迷宮で行動を共にし、協力し合い、助け合う事が多くなるにつれ、エリンは……より深く、私を受け入れてくれました。私達ふたりは、今や心を開き寄り添わせ、親友といえるほどの仲になりました」


「し、親友だと!?」


「はい! お祖父様なら、私の気持ちを良く分かって頂けると思います」


「…………」


「そして……アスピヴァーラ家の先祖が犯した大罪を知った時、私は……心が砕かれそうになりました……」


「ヴィリヤ! お、おお……」


 ヴェルネリは絶句した。

 自分が長い間、苦しんで来た苦しみ抜いた葛藤を……

 この孫娘も味わったのだ。


 そんなヴェルネリへ、ヴィリヤは微笑む。


「私は、生きているのも嫌になりました。実は自死も考えました。今迄、伝統ある自分の家を誇りとし、心の拠り所(よりどころ)として生きて来たから尚更でした」


「じ、自死!? おおお! ヴィ、ヴィリヤっ!」


 自ら死ぬ事まで考えたヴィリヤ……

 ヴェルネリは嘆き叫び、悲しんだ。


 しかし今のヴィリヤに悲観する様子はない。


「散々、迷い悩みました。……でもダンに熱く励まされ、エリンに優しく包まれ、思いとどまり、立ち直る事が出来ました。それどころか、ふたりは私のやるべき使命を見つけてもくれました」


「…………」


「お祖父様! 旦那様同様、私からもお願い致します!」


「ヴィ、ヴィリヤ……」


「リョースアールヴも! デックアールヴも! 人間も、その他の種族も! 誰もが分け隔てなく暮らせる、新たな国を創る私達に! どうか、どうか! お力をお貸し下さいませ!」


「…………」


 ヴェルネリは、愛する孫娘の懇願にすぐ応える事が出来なかった。

 まだ迷っていたからだ。

 話は……そう単純で簡単ではない。

 ダンに指摘された通り、様々な障壁が立ちふさがっている。


 と、その時!


 ぴいいいいいいいいいいいいんんっ!!!


 部屋に凄まじい異音が轟いた。

 空気が張り裂けるような独特な音である。

 いきなり、室内に膨大な魔力が満ちて行くのを感じる。


 とっさに全員が身構える。

 何か未知の、大いなる存在が突如現れる気配がする。

 その前触れともいえる、厳かな雰囲気を醸し出しているのだ。


 突如!

 空間が割れた。

 

 そして、たおやかな美しい女性が姿を現すと……

 驚くヴィリヤへ、空中に浮かんだまま優しく微笑みかけたのであった。

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