第158話「帰還」
数日後……
準備を万端に整えたダン達は、リストマッティ達へ別れを告げた。
いよいよ地上へ戻るのだ。
但し、英雄の迷宮を、わざわざ1階ずつ上がったりはしない。
ダンの転移魔法を使うのだ。
地下深きデックアールヴの国から直接、それも一気に、迷宮3階へ跳ぶのである。
直接、ヴィリヤの屋敷へ戻る事も可能であった。
しかしダンは慎重である。
ちゃんと手順を踏み、迷宮から帰還する形を取ろうと決めたのだ。
帰還地点に地下3階を選んだのは、理由があった。
商店が立ち並ぶ地下1階は論外であり、地下2階は迷宮初心者も含め、「人の目が多いから」というダンの判断なのである。
「ダン殿、頼んだぞ。朗報を待っている」と、期待と確信を込めて見送るリストマッティ。
「お願いします、ダンさん。妹へ! 必ずリアーヌへ伝えて下さい。ルネは、お前の兄は生きている、絶対にまた会おうと!」と、ルネ。
「お~い、ダン。いつものように上手くやってくれよ、信じてるぞ」とチャーリー。
他のクラン炎のメンバー達も、エールを送り、大きく手を打ち振っている。
ダンはふと思いついた。
見送りの者、全員へ『フィストバンプ』を教えたのだ。
お互いに、拳と拳を軽く突き合わせる友情の儀式である。
こつん、こつん、こつん、こつん、こつん、こつん……
その場の全員が、拳を軽く合わせて行く。
大きなごつい拳、華奢な拳……様々な拳が交わされた。
軽い感触と、確かな温かさが伝わって来る。
「他愛ない!」といえば、他愛ない行為。
しかし、心の絆が深まった事を、誰もが確かに感じていた。
こうして……
全員の期待を一身に受け……
ダンは魔法を発動した。
習得したての時、計算を大きく間違って、エリンと共に天高い大空へ飛び出してしまったのも、今は懐かしい思い出…
今や、ダンは、転移魔法を自由自在に使いこなしている。
いつもながら、転移魔法で空間を移動する感覚は不思議なものらしい。
ダンはともかく、エリンやヴィリヤには少し不安があるようだ。
しかし、もう遠慮は要らない。
3人は既に夫婦なのだから。
ダンに、エリン、そしてヴィリヤはしっかりと抱き合い、3人はデックアールヴの国から煙のように消え失せた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
……瞬時に英雄の迷宮3階へ跳んだ3人。
そして難なく、迷宮の出口へと戻った。
火蜥蜴を先行させ、到着地点の周囲に人影が無いのを確かめてからの、万全な転移である。
迷宮を出たダン達は、すぐに冒険者ギルドの出張所へ向かった。
出迎えてくれたのは、出発の際、見送ってくれた戦士と僧侶である。
エリンは、再び人間の姿に戻っていた。
ヴィリヤも同様に、ゲルダの姿へ戻っていたから、出発した時の3人という趣きである。
……ダン達が、迷宮へ潜ってから、2週間が経過していた。
無事な帰還を信じているとはいえ、地上に残ったリアーヌやゲルダはどんなに心配しているだろうか……
リアーヌ達の心配を考慮し、即座に緊急の魔法鳩便が飛ばされた。
1時間後……
ヴィリヤの屋敷から、大型馬車が迎えに来た。
到着した馬車から、転がるように飛び出して来たのは……
主のヴィリヤに擬態した、ゲルダであった。
脱兎の如く、駆け寄って来るゲルダは、喜びのあまり大きな声をあげ、
顔をくしゃくしゃにし、子供のように泣いていた。
無事帰還した主に安堵した嬉し涙であり、鼻水まで流している。
まさに号泣。
普段の凛としたゲルダなら、絶対に見せない姿……
ヴィリヤは未だ擬態している。
だから、ゲルダの名前は安易には呼べない。
恐る恐る帰還の挨拶をする。
「た、ただいま……」
「お帰りなさいませぇっ!」
戸惑うヴィリヤへ、泣き笑いのゲルダは大きく叫び、「ひし!」と抱きついたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ダン達3人と合流したゲルダ。
馬車を、ヴィリヤの屋敷へと走らせていた。
出張所の戦士と僧侶へは……
「冒険者ギルドへの詳しい報告を明日以降にしたい」と、伝言を託して。
ちなみに……
途中で勇者亭へ寄り、リアーヌを「ピックアップ」する事となっている。
……地上で待機していたリアーヌへは、既にダンから、念話で連絡が行っていた。
兄ルネとチャーリー達の無事も伝えてある。
たくさんの朗報を聞いたニーナは大喜び。
「待っています! すぐ来てください」
と返して来たのは言うまでもない。
閑話休題。
馬車の車内で、自分に擬態したゲルダをジト目で睨むのは……
本物のヴィリヤである。
「もう! ゲルダったら……まるで私が大泣きしたみたいじゃない……少し恥ずかしいわ」
「申しわけありません、つい嬉しくて、取り乱しました……」
当然ながら、ヴィリヤは本気で怒っているわけではない。
目の前のゲルダは……
無事に自分が帰還出来なかったら、自死する覚悟をしていたのだから。
そこまで自分を思ってくれる部下の気持ちが、ヴィリヤには凄く嬉しいのである。
「ごめん、冗談よ。本当にありがとう、ゲルダ」
「いえいえ!」
「私、ゲルダにい~っぱい話す事があるわ。全部が全部、素敵な話なのっ!」
「そうでしょう、そうでしょう! ゲルダはぜひお聞きしたいと思います」
「とりあえず、最初の報告をします。私……ダンと結婚する!」
「ええっ! そ、そうなのですかっ! お、おめでとうございますっ!」
返すゲルダの声が思わず上ずった。
そう、上手く行ったのだ。
遂に!
妹のように可愛い主の恋が実ったのだ!
部下というよりも『姉』として、ゲルダはとても嬉しくなった。
と、同時に……
「これから、大変だ」とも考える。
イエーラへ帰国し、ヴィリヤの婚約を解消、人間であるダンとの結婚を報告しなければならない。
ヴィリヤの祖父ヴェルネリを説得しなければならないから。
……そうこうしているうち、馬車は王都へ入った。
やがて勇者亭の前に到着する。
店の前では既に、リアーヌと店主のアルバンが立ち、待っていた。
止まった馬車からは、ダンとエリンだけが降りる。
大きな安堵とそれ以上に大きな喜び。
顔をくしゃくしゃにしたリアーヌは、先ほどのゲルダ同様……
ダンとエリンの名を、大きな声で呼び、思いっきり抱きついたのであった。
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