第146話「駆け引き」
先頭をリストマッティ達、法衣姿の一団が歩く。
続いてチャーリー達。
先導されたダン達は闘技場を後にし、新たな転移門へ入った。
……到着した先は窓がなかった。
扉もひとつしかない部屋である。
そこそこ広い部屋である。
闘技場に居た全員が入っても、そんなに窮屈とは感じない。
相変わらずダンは、抜かりがない。
初見のリストマッティ達はともかく……
いくらチャーリー達を信じているとは言っても、万が一の事もある。
ダンはさりげなく姿を消すように命じる。
と、同時にケルベロスとサラマンダーは異界に身を置き、透明状態となった。
何かあったら、すぐ対応するようになっている。
部屋には長方形のテーブルと、向かい合う形で、椅子が10脚置かれていた。
まるで、会議室のような場所である
『ソウェル』リストマッティは、ダン達と何やら話し合いをするつもりらしい。
先に座るよう促され、ダン達3人が着席すると……
続いて、リストマッティ、ラッセ、そしてチャーリー達も座った。
一同が落ち着いたところで、リストマッティが「さっ」と手を挙げる。
「宜しいか、ダン殿。私達はもう少し貴方と話したい」
「ああ、俺もだ」
「その前に、はっきりさせておこうか。貴方達が彼等を連れ戻す件はどうするのかね?」
ダン達が述べた目的とは、人喰いの迷宮の調査は勿論、行方不明となった者達の捜索である。
結果、チャーリー達クラン炎、そしてリアーヌの兄ルネは無事に見つかった……
本人達が希望すれば、地上へ連れて帰るつもりだ。
「チャーリー、ルネ、どうする?」
これまでチャーリー達は、行方不明だったというのに……
敢えてダンは軽い口調で聞いてみた。
但し、チャーリーの態度や物言いからして、答えは大方予想出来ていた。
案の定、
「ダン、悪いが……俺達は当分、地上へ戻らない」
と、チャーリーが口火を切り、
「そうそう、ごめん、ダン」
「ここまで来て貰ったのに、悪いな、ダン」
「この件に関してだけは、チャーリーに賛成する」
クラン炎のメンバー達も、チャーリーに同意した。
更にルネも、
「ダンさん、申し訳ありませんが僕も戻りません……」
「そうか、ルネさん。貴方も暫く、リアーヌの下へ戻らないのか?」
ダンは敢えてルネへ、「暫く」と尋ねてみた。
先ほど、チャーリーが「当分」と言ったから。
「はい、戻りません! 妹の事だけが心配でしたが……ダンさん、貴方なら安心です」
「ダンならば、愛する妹を託して安心だ」ときっぱり答えたルネ。
先ほど、闘技場で話してみて分かったが……
同じ冒険者ギルド所属のルネは、ダンの評判を聞いていたという。
めっぽう腕が立って、面倒見も良いと。
これで確定した。
チャーリー達もルネも、いずれは地上へ帰る気持ちがある。
ならば、焦る事はない。
とりあえずダンは、彼等の意向を受け入れ頷く。
「分かった」
「改めてダンさん、妹を、リアーヌを宜しくお願いします」
ルネは、「助かる!」というように両手を合わせ、お願いポーズをした。
ここで……頃合いと見たのだろう。
同時に、リストマッティが会話を締める。
「……と、いう事だ。ダン殿」
リストマッティの言葉を聞き、ダンは「ふっ」と笑う。
「成る程……もしやと思ったが、洗脳されている様子もないな」
戻されたのは、皮肉めいたダンの言葉。
頭衣にすっぽり隠されているから、リストマッティの表情は分からない。
だが、少し不機嫌になったのは間違いないだろう。
「当たり前だ。私達はそんな、あくどい事をしない」
洗脳を否定する、リストマッティの口調からは、はっきりと不快の波動が放たれていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
どうして?
チャーリー、ルネ達は、地上へ戻ろうとしないのだろう?
余計な口を挟まず……
傍らで話を聞いていた、エリンとヴィリヤには不思議であった。
闇に通じる邪悪な魅惑の魔法か何かで……
彼等の心が意のままに操られているとかなら分かる。
ダンが、リストマッティへ皮肉を言ったのはその為だ。
心をズバリ読める、ダンほどではないが……
ダークエルフ特有の能力で、エリンは人の気持ちを、心の波動で感じ取る事が出来る。
その能力が告げていた。
チャーリー達も、ルネも、そしてリストマッティも、全く嘘をついていない。
そして、相手の考えが分かるダンは、とっくに気が付いている筈だ。
冒険者達が地上へ戻らない、はっきりとした理由を。
つんつん!
エリンは、ヴィリヤを軽く突っついた。
「?」
無言で訝し気に見るヴィリヤへ、エリンは「にこっ」と笑った。
「ヴィリヤ、大丈夫。旦那様なら、ね」
何があってもダンを信じよう。
短い言葉の中に込めた、愛する夫への信頼を、エリンは促したのだ。
「わ、分かった」
ヴィリヤも、戸惑い気味で、少々噛みながらも……
愛する『恋人』を信じようと大きく頷いたのである。
そんな、『嫁同士』の会話が交わされている傍らで、リストマッティはいよいよ本題へ入ろうとしていた。
「さて、ダン殿……どうして彼等が地上へ戻らないか? その理由を知りたいだろう?
「まあな……」
「では条件付きで教える、つまり貴方が協力を約束したら話そう」
「ふむ……もし、俺が断ったら?」
「我々の協力を断った場合……通常なら、秘密保持の為、魔法で対象者の記憶を消し、解放する。だがダン殿の場合はこのままで良かろう」
リストマッティの、『このまま』という言葉にはふたつの意味があった。
ひとつは、ダンを信じるという意味の投げかけ。
もうひとつは、チャーリー達の身の安全を考えろ
……という意味であろう。
ダンの気持ちを知ってか、知らずか、リストマッティは回答を催促する。
「さあ、いかがかな?」
果たして、ダンの答えは……
「……分かった。話の内容次第だが、基本的に協力しよう」
「話の内容次第……そうか、それは助かる……不履行の場合、ペナルティは敢えて決めないが……ダン殿を信じるからな」
言い方は柔らかいが……
たとえ口約束でも、破る事は許さない。
絶対に履行せよと迫るリストマッティ……
しかしダンは相変わらず、飄々とした口調で、
「はは、こちらもだ」
と返し、「にやっ」と笑ったのである。
いつもお読み頂きありがとうございます!
今回の144話で書き溜めが尽きました。
頑張って続きを書き、また更新しますので、宜しくお願い致します。
そして!
東導 号作品、愛読者の皆様へ!
『小説家になろう』様で連載中の、
拙作『魔法女子学園の助っ人教師』
https://ncode.syosetu.com/n3026ch/
最新第4巻の発売が『7月21日』予定となりました!
各書店様で、予約開始されているようです!
※新刊が出るまでは、まず既刊第1巻~3巻をぜひぜひ!
既刊が店頭にない場合は恐縮ですが、書店様にお問合せ下さい。
皆様の応援が次の『続刊』へ、つながります。
何卒宜しくお願い致します。




