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第130話「エリンとヴィリヤ⑥」

 気持ちを決めたエリンは、ヴィリヤへ話し掛ける。


「ヴィリヤ、聞いて……」


「…………」


 しかし、いくらエリンが呼び掛けても……

 ヴィリヤは、相変わらず泣くばかりだ。

 そこでエリンは敢えて慰めず、『逆手』を使う事にした。


「ヴィリヤ! ず~っと泣いていたって、駄目! な~んにも変わらないよ。そのままじゃあ、ダンからはガン無視だよ」


 エリンは、容赦なく叱咤した。

 すると、無言で肩を震わせて泣いていた、ヴィリヤが遂に反応したのだ。

 

「…………ガ、ガン無視? エ、エリンさん! そ、その言葉は聞いた事があります。徹底的に、完全に無視って事ですか?」


「その通り」


「い、い、嫌です」


 恋する乙女はやはり、『想い人』の事となると違う。

 恋が実らない上、まったく相手にされないなど、恋する乙女ヴィリヤにとっては死に勝る苦しみなのだから。


 突破口を開く、チャンスだ。

 エリンは、「ここぞ!」とばかりに、ヴィリヤを激励する。

 

「さあ! 顔を上げて! 前を向いて! ヴィリヤには、まだまだやるべき事が残っているでしょ?」


「はぁ…………の、残っている……私には、まだまだ、や、やるべき事が? ま、……まあ……そうですよね」


 エリンの叱咤&激励を聞いて、やっとヴィリヤが顔を上げた。

 大きくため息をついて。

 

 ため息をついたのには、理由がある。

 やるべき事……確かにヴィリヤの片思い的な恋より、大事な事がある。

 この迷宮へ3人で潜った、本来の目的があるから。


 元々このクランは、救助及び調査の仕事のみで組まれた、即席クランなのだ。

 そう、あくまで『仕事の為』のみで……

 だからエリンの言う意味とは、『仕事だけ』はきっちりやる。

 ヴィリヤは、当然そう思っていた。


 しかし、エリンの発した言葉の意味は、全く違っていたのだ。


「うん! ヴィリヤの恋の為にね。ダンに対して、やるべき事が、まだ残っているよ」


「え? わ、わ、私の!? こ、こ、恋の為に!」


 ヴィリヤは盛大に噛んでしまった。

 吃驚した。

 やるべき事が『仕事』じゃなく……自分の『恋』だなんて。

 予想外のエリンの言葉に、ヴィリヤは話が……見えない。


 戸惑うヴィリヤへ、エリンは問う。


「そうだよ、ヴィリヤ。貴女は本気でダンが好きなんでしょ?」


 この質問は、ヴィリヤにとって自信を持ち、答える事が出来た。

 なので、当然即答する。


「は、はい! 本気で好きですっ」


「なら、今、全力を出さないと、ヴィリヤは凄く後悔するよ。このままだと、もっと、もっとね」


「う、ううう……確かにぃ」


 エリンの言う通りだ。

 このままだと後悔するのは間違いない。

 だけど、ヴィリヤにはどこをどう進んで良いのか、『道』が見えないのだ。


 辛そうな表情のヴィリヤへ、エリンは再び問いかける。 


「ねぇ、ヴィリヤ、リアーヌの事、覚えてる?」


「リアーヌさん……はい」


 エリンに女性の名を言われ、ヴィリヤは記憶を手繰った。


 リアーヌ……って……

 確か……ダンのふたりめの妻。

 王都の勇者亭という居酒屋ビストロで出会った少女。

 可愛いメイド服で給仕をしていた、グラマラスな可愛い子……

 でも何故エリンは、今、急にそんな事を聞くのか?

 

 そんなヴィリヤの疑問に対し、エリンはすぐ答えてくれた。


「リアーヌもね、今のヴィリヤと同じ状況だった。でも素直に、全身全霊でダンへ気持ちを伝えた」


「…………」


「女子の『好き』を受け止める、ダンの気持ちもある。だから最後に……決めたのはダン」


「…………」


「だけどその時……エリンは……リアーヌを応援した」


 エリンが、リアーヌを応援?

 さすがに今のヴィリヤなら、その意味が分かる。

 ……妻であるエリンは、「押しかける」ヴィリヤを、受け入れてくれるのだ。


「エ、エリンさん! そ、それって、まさか!」


「今回もエリンは同じ…………ヴィリヤの事も、応援する。恋に全力を出すヴィリヤならね」


「エ、エリンさん! あ、ありがとうございますっ!」


 ヴィリヤは、思わず感極まった。

 死ぬ思いで諦めかけた恋を、叶えるチャンスが生まれたのだ。

 無理もない。

 それも、妻であるエリンが、自分を助けてくれる?

 信じられない事だと思いながらも、素直に嬉しい。

 

「その代わり、もし結婚しても、ヴィリヤは3番目のお嫁さんだよっ」


「3番目の……ええ! 全然構いませんっ。そうか……エリンさんが、私を応援してくれる…………恋に……全力を出す、私ならば……」


「うん、そうだよ。でもね、エリンはOKだけど、ダンは言っていた筈。相手の事も考えろって……」


「…………」


「だからね、ダンの気持ちだって考えなきゃ」


「そう……ですね。ダンの気持ち……確かに……そうです。エリンさんの仰る通りです」


 ヴィリヤは大きく頷いた。

 

 逆の立場で考えてみる。

 そうだ。

 偉そうに、冷たくしていたヴィリヤのような女子など……

 もし自分が、ヴィリヤが相手の男子だったら、好きになる筈などない。


「そして、ヴィリヤのしがらみもね」


「私のしがらみ……」


「そう、しがらみ! そもそもヴィリヤには、結婚を約束した婚約者が居るでしょ?」


 エリンから、しがらみの『最たるもの』を聞かれたヴィリヤは、ハッとする。


「結婚を約束した婚約者…………あ! は、はい、そういえば居ました」


「い、いや……そういえば居ましたって……過去形じゃなくて、まだ居るでしょ?」


「ええ、言われてみれば、婚約したままです」


「もう! このままじゃ、まずいから……貴女の国へ一旦帰って、話し合わないと、いけないよ」


「はい! 何とかしないと、いけませんね」


 あっさり頷いたヴィリヤ。

 彼女の様子を見たエリンは思う。

 

 やはりヴィリヤは、事の大きさを理解していないと。

 エルフの詳しい事は分からないが、ヴィリヤは王族に近い立場なのだろう。

 で、あれば親の決めた結婚相手を、彼女の一存だけで、簡単に反故に出来るわけがない。


 そう、ヴィリヤには猪突猛進な部分がある。

 興奮してひとつの事に執着すると、自分の置かれた環境が、全く見えなくなってしまう性格なのだ。


 だからエリンはまるで子供を諭すように、優しく言い聞かせる。


「ヴィリヤ、良い? そんなしがらみを、ダンにぽいっと丸投げしちゃ駄目。まずは自分で何とかしなきゃ、覚悟をもって恋をしなきゃいけないのよ」


「覚悟を……もって……か。エリンさん、確かにそうです。私、感情が先走り過ぎて、何も考えていませんでした」


 ダンとの恋を成就させる為にまだ問題は山積み……


 しかし、少しでも光明が見えて来たヴィリヤは、エリンを見て嬉しそうに微笑んだのである。

いつもお読み頂きありがとうございます。


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