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第129話「エリンとヴィリヤ⑤」

 ダンとの恋が実らない。

 エリンと結んだ深い絆を聞いたら、入り込める余地などない。

 ほぼ絶望的となった……

 あまりにも悲しくて、我慢出来なくなり、ヴィリヤは嗚咽していた。


「ヴィリヤ……」


「…………」


 エリンが呼び掛けても、ヴィリヤは黙って泣くばかり……

 更にヴィリヤの発する悲しみで、エリンの身体は、ちくちく刺すような痛みを感じていた。


 そう……

 エリンには、ダークエルフ特有の能力がある。

 他種族に比べ、様々な気配を読むのに長けているのだ。

 ダンと一緒に森を探索した時、鹿や狼の気配を察知したのは、この能力なのである。


 気配とは、対象が存在を発する合図、すなわち波動。

 そして波動は、対象者の『感情』をも運んで来る。


 泣き出したヴィリヤの波動も、彼女の悲しみの感情を、エリンへ報せて来た。


 私は、もう駄目だ!

 二度と、取り返しがつかない事をしてしまった!

 自分のつまらない失策で、ダンの気持ちを失ってしまった。

 彼はもう私を愛してはくれない。

 単に仕事だけの繋がり……

 ……立ち直れない。


 波動を読むまでもなく、ヴィリヤは傍から見ても分かるくらいに落ち込んでいた。


 悲しむヴィリヤを見て、エリンは葛藤している。

 叶わぬ恋に、もだえ苦しむヴィリヤの事が、可哀そうになっているのだ。


 しかしヴィリヤは……ダークエルフの宿敵、エルフである。


 そもそもエルフが何故、ダークエルフの宿敵なのか?

 それは、今は亡きエリンの父が教えてくれたから。

 憎むべき存在だと……


 エルフは、とても酷い奴等だと父は言っていた。


 祖先が同じだと言われるダークエルフを、殊の外、目の敵にする。

 否、ダークエルフだけではない。

 エルフは高慢な性格故、さしたる理由もなく他種族全てを、蔑視するというのだ。


 父の発する憎しみの叫びを、物心ついた時から、エリンは聞いていた。


 熱を帯びる父の、エルフに対する非難は止まらない。

 己が容姿と知性に絶対の自信を持ち、何かにつけ鼻にかけた物言いをする。

 常に計算高くて、ずる賢い等々。


 尊敬する父から毎日、そう聞かされていたらエリンもそう信じ、エルフを憎まざるをえない。

 更に父は……激しい憎しみの籠った目で、こうも言っていた。


 ダークエルフが地上から追放されたのは、エルフが創世神へ『諫言』したのが原因だと。

 ありもしないダークエルフの罪をでっちあげたと。

 

 もしも父の言う事が事実なら……

 ダークエルフは、エルフの工作による冤罪の為に、住んでいた地上を追われた事になる。

 そんな事は絶対に許せない、鬼畜にも劣る悪魔の所業である。


 そんなエルフとは到底、一緒になどやっていけない。

 クランを組むどころか、同じ空気を吸うのだって、不可能だっただろう。


 しかし、エリンの目の前に居るヴィリヤは、そんな女の子ではなかった。

 初めて会った時こそ、やたら「つんつん」してプライドが高く、鼻持ちならない子だと感じたが……


 じっくり話してみたら、『素』は違っていた。

 むしろ自分と似ていた。


 ヴィリヤは、あまり器用ではない。

 むしろ不器用だと言い切って良い。

 計算高くなど、けしてなく、自分の気持ちに忠実である。

 

 それどころか、不器用ながらもいつも全力で頑張る、まっすぐな優しい女の子だった。

 オークの出現で混乱し、我を忘れ暴走しかけたエリンを、自らの身体を張って救ってくれたのだから。


 そう!

 違う!

 違うのだ!

 父から聞いていた悪辣なエルフとは……ヴィリヤは全く違うのだ。


 宿敵エルフであれ……

 ヴィリヤは、同じ人間の男を愛した女……

 自分と同じ……


 エリンはふと、自分がダンと出会ったばかりの時を思い出していた。


 あの時、エリンは必死だった。

 連れて行ってくれと、泣いてわめいて、ダンにとりすがった。

 高貴なダークエルフの王女とも思えない、酷い醜態をさらしたと思う。

 

 良く良く考えてみれば……

 あの時、泣いてわめいた自分も、今、目の前で嗚咽するヴィリヤも……

 全く同じではないか……


「ふっ」


 思わず微笑んだエリンの……心は決まっていた。

 この気持ちは、……リアーヌの時と一緒だ。

 エリンはリアーヌの真っすぐな気持ちを知り、受け入れる事を決めた。

 最後は、ダンの気持ちに一任するとして。


「ふ!」


 またエリンは笑ってしまった。

 先程より、もっと大きな声で。


 そう!

 ダンは優しい。

 女子の押しに弱い。

 一途に思いを寄せる女子を、きっぱり突き放せない。


 そんな態度が、女子を悪戯に誤解させ、トラブルのもとにもなる。

 本当に、馬鹿だと思う。

 でも、種族や老若男女問わず誰にでも優しい。

 そんなダンが……エリンは大好きなのだ。


 ふと、エリンはダンを見た。

 彼は少し離れた場所で横になり、ぐっすりと眠っている。

 何も考えていないような無邪気な寝顔をして……


 つい「くすり」と笑ったエリンは、心の底からダンが愛おしいと、感じてしまったのであった。

いつもお読み頂きありがとうございます。


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